学校であった怖い話
>隠しシナリオ1(坂上修一)
>E4

そうだ、本を読もう。
買っただけで、まだ読んでいない本があったんだ。
僕は本を抱えて、ベッドの上に寝ころんだ。
これでも、本を読むのは嫌いじゃない。
僕はペラペラとページをめくった。
その時、文字が動いたような気がした。

なんだ?
手を止めてそのページを見つめる。
何の変哲もない、普通の本だ。
気のせいだったのか……。
そう思って、ため息をついた瞬間。

グニャリとページが持ち上がった。
その動きにつられて活字がうねる。
何が起ころうとしているんだ!?
僕は、自分の目を疑った。
ページはどうやら、顔の形になろうとしているらしい。

誰かが悪戯で、紙の下から顔を押しつけているようだ。
こんなこと、信じられない……。
けれど紙の顔は、グニッとくちびるをひん曲げた。
「ひゃはははっ」
人を馬鹿にしたような、嫌な笑い声。

僕はカッとなって、本を壁に投げつけた。
跳ね返った本は、また同じページを開けて床に落ちた。
「嫌だなあ。僕がわかりませんか?」
本の顔がしゃべった。
「荒井ですよ。忘れちゃったんですか」

確かに、荒井さんの声だ。
僕は息を飲んで、本をのぞき込んだ。
そういわれれば、似ているような気もする。
でも、いったいどうして……。
「私達、坂上君が気に入ったのよ。
だから、いっしょにいようと思って」

すぐ横で女の声がした。
ベッドのシーツがよれて、顔の形になっている。
この顔、そしてさっきの声……。
「い、岩下さん……?」
「そうよ。これからは、ずっといっしょにいましょうね」
「君は、なかなか見所があるからな」

カーテンがしゃべった。
あれは風間さんだ!
僕は部屋中を見回した。
壁紙にいるのは細田さんだろうか?
じゃあ、机の木目の、あれは福沢さんか?
そして、ハンガーに掛かった制服には……。

「この俺、新堂誠のことも忘れちゃいねえだろうな」
なんてことだ。
僕の部屋は、どうなってしまったんだ!?
「そんな情けない顔しないでよ」
「仲良くやろうじゃないか」
「僕達が、いつも見守っていてあげる」

「そう、ずっとね」
「君が大人になっても」
「誰かと出会い、結婚しても」
「子供が生まれて、その子のために働いているときも」
「いつか年老いて、子供が巣立っても」
「そうとも、君が死んでしまうまで」
「私達は、ずっといっしょよ」

「見守っててあげる」
「見守っててあげる」
「見守っててあげるからね」
僕は両手で耳をふさいだ。
「やめてくれーーーーっ!!」
部屋の中の顔達は、それでも黙らない。

「僕達は君が好きだよ」
「おまえも俺達が好きだよな」
「七不思議、話してあげたじゃない」
「君はいつだって、一人じゃないんだよ」
「嬉しいでしょ? ね、嬉しいよね」

「出かけるときは、服のしわに隠れてるよ」
「靴の先でも、髪の中にでも隠れられるんだから」
「黙れ! 黙れ!! 黙らないと…………」
どんどんと、ドアを叩く音が聞こえる。
僕の声を聞きつけたのだろう。

家族が部屋に入ってきた。
「坂上君の家族だ」
「坂上君に似てるね」
「僕、こっちでもいいなあ」
「やめろ! 家族には手を出すな!!」
叫ぶ僕は、押さえつけられた。
「誰と話している? しっかりしなさい」

誰とだって?
六人の姿が見えないのか!?
「この人たちには、私達がわからないみたいね。おもしろーい」
「ついてっちゃえ、ついてっちゃえ」
「やめろぉっ!!」

つかまれた腕を振りほどこうとする。
「修一!!」
「しっかりしなさい!!」
今は、それどころじゃないだろう!?
こいつらをどうにかしなきゃ、僕だけじゃなくて、家族まで被害が及ぶんだ。

「放せ! 放してくれよ!!」
叫んだ瞬間、ガツンと頭に衝撃が走った。
視界がクラッと歪む。
誰かに殴られた……?
僕は、気を失った。

……目覚めたとき、僕は清潔なベッドに寝かされていた。
手も脚も固定されて、動くことができない。
白衣を着た男が、何かいっていた。
錯乱状態……とか、思春期がどうしたとか、よく理解できなかった。

聞いた家族が泣いていたが、それもあまり、気にならなかった。
ただ、一つだけ。
彼らのいったことは、本当だった。
真っ白な天井に、カーテンに、そこら中に顔があった。
みんな僕を見ている。

きっとあれが細田さん、あっちが風間さん。
もう、そんなに嫌な感じはしなかった。
彼らがいてくれれば、この白い部屋の中でも退屈しないだろう。
僕は、顔達に微笑んでやった。


       (ドクロエンド)