学校であった怖い話
>隠しシナリオ1(坂上修一)
>G3

「はい……」
力無くうなづいて、僕はそこから離れた。
旧校舎に背を向け、校門を見る。
夏休みだというのに、女生徒がいる。
僕と同じように、壊される前の旧校舎を見に来たんだろうか。

でも、それにしては妙だな。
何がとは、はっきりいえないけれど……。
……そうだ!
僕は、違和感の原因に気づいた。

照りつける夏の陽射しにも関わらず、彼女の足元には影がなかったのだ!
僕は急いで、彼女に追いついた。
「ねえ、君!」

……振り向いた顔には、真っ白な仮面がつけられていた。
あの少女だ!
息もつけずにいる僕を見て、仮面の下の目がかすかに笑ったような気がした。
「やっぱり来たのね」
何もかも見通していたという態度……。

「なぜわかったという顔ね。知りたければ、教えてあげましょうか」
少女は、胸ポケットから小さな鏡を出した。
そしてそれを、僕の目の前に突き出す。
「ほら……」
促されて鏡をのぞき込む。

そこには、少女と同じ仮面が映っていた。
あわてて顔に手を当ててみる。
固くて冷たい感触。
これは……仮面?
僕はいつの間に、仮面をかぶったんだ!?
覚えがない。

いや、僕はかぶっていない。
でも、それならいったい……?
「わからないの?」
冷ややかな声が、僕のパニックを押さえた。
「その仮面は、あなたのもの。だって私はあなたなんだから……」

「そんな……」
そんな馬鹿なことがあるわけない。
僕は、彼女の手をはねのけた。
鏡が地面にたたきつけられ、砕ける。
「信じないぞ! 僕は僕だ!!」
僕は両手を仮面にかけ、思い切って引きはがした。

何の抵抗もなく、仮面は外れた。
しかし少女は、僕の顔を指さした。
「じゃあ、それは誰だっていうの?」
……どういう意味だ?
僕は鏡のかけらを拾い、顔を映した。
そこに映っていたのは……。

「日野先輩!?」
鏡の向こうで、驚いた顔をしているのは、新聞部の日野先輩だ。
「嘘だ!!」
僕は、鏡のかけらを地面に投げつけた。
何度も踏みつける。
かけらは砕け、きらきら光る無数の粒になった。

「ふふふ……無駄よ」
少女が笑う。
散乱した鏡のかけらが、フワフワと浮かび上がった。
「見てごらんなさい。誰が映っている?」
かけらは僕を囲む。

小さな鏡面に、僕を映し込みながら。
けれど、そこに映っているのは僕ではなかった。
荒井さんがいた。
岩下さんも、風間さんもいた。
新堂さんが笑っていた。
そして細田さんと福沢さんまでも。

みんな、鏡の中から僕を見ている。
嘘だ。
こんなことって……。
「そ、それじゃあ……僕は誰なんだ?」
かすれた僕の声に、少女は聞き返した。

「あなたは、自分の体が自分一人のものだと思っていたの?」
その瞬間、僕はひどい頭痛に襲われた。
思わずしゃがみ込む。
……どれくらい、そうしていたのか、わからない。

「おーーーーい! 死体だ! 死体があるぞおっ!!」
旧校舎の方で、大きな声が上がった。
「……まだ死んだばかりの仏だ」
「この学校の生徒じゃねえのか?」
「一……二……三……七人もいるぞ」
そんな話し声も、切れ切れに聞こえる。

僕は、ゆっくりと顔を上げた。
校庭にいた人たちが、みんな旧校舎の方へ駆けていく。
でも、僕は校門に歩き出した。
見なくても、誰の死体かはわかっている。

あれらは、僕の死体だ。
そんなことより、僕にはもっと、大切なことがあるのだ。
そうだ、募集原稿を書かなくちゃ。
夏休みが終わったら、学校の七不思議を話してくれる人を捜すのだ。

とびきり怖い話をしてくれる七人を。
もちろん僕は、彼らを丁重に扱うつもりだ。
もしかしたら彼らもまた、僕かもしれないんだから。


       (ドクロエンド)