晦−つきこもり
>一話目(真田泰明)
>G6

ははっ、そうか。
葉子ちゃんらしいな。
えっ、いつもいい方にとるからさ。
でも葉子ちゃん、この話は教訓になるから、よく聞いとくんだよ。
そんなにいい方にとるのも、時によるって分かるから。

ああ、この話の続きを聞けば分かるよ。
どこまで話したかな、ああ、そうだ。
俺はソファーに座ったんだ。
周囲を見渡すと、部屋にはもう2、3人しか残っていなかった。
(そういえば、風間、どうしたのかな……)

俺は風間のことが気になった。
「あれ、風間がいない……………」
席には風間がいなかった。
(帰ったのか)
俺はこの前聞いた、彼が倉庫に行く話を思い出した。

(まさか、いまさら………………)
そんなことを考えているとコーヒーが届いた。
「泰明さん、どうしたんですか?
ボーッとして」
「いや、なんでもない。そういや、風間は……?」
「ああ、風間ですか。あれ、さっきまでいたんですがね」

彼はそう答えると、コーヒーをとって飲み始めた。
「そういえば、風間、最近痩せましたね」
「確かにな」
そう、彼は最近やつれ表情は青白い。
(やっぱり尾を引いているのかな)

しばらくの間、風間のことも忘れ、彼と雑談をしていたんだよ。
「じゃあ、僕は仕事に戻ります」
そして彼はコーヒーを飲み終わると仕事に戻ったんだ。
俺は一人になると、また風間のことが気になり出した。

(倉庫か…………………)
コーヒーを飲み終えると、倉庫を見に行くことにしたんだ。
廊下はシーンと静まり返っている。
もうビルにはほとんど人は残っていないようだ。

(しかし風間の奴、本当に倉庫にいるのか? いや、いたとしても仮眠なら問題ないんだ。でも、仮眠ならもっと良い場所があるはずなのに………)
俺は廊下を歩きながらそんなことを考えてた。
そして倉庫の前についたんだ。

(もし、風間がいたら……………)
そう思ったが風間がいても、語りかける言葉が思い付かなかった。
俺はドアを開けるのをちゅうちょした。
しかし、しばらく立ちすくんだ後、意を決してドアを開けることにしたんだ。

倉庫の中は静まり返っていた。
俺は足を進め、中に入ったんだ。
中は物が立ちはだかり見通しがきかなかった。
そして更に奥に進んだんだ。
(風間か…………?)
物陰に人が見えた。

俺は物陰からその場所を覗いたんだ。
(風間…………)
風間がいた。
そして、その前にはもう一つの人影があった。
(女…………)
彼女はあの絵の女だったんだ。

俺は眼を疑った。
女は風間の首筋に顔をもたれている。
しばらくすると彼女は彼からはなれた。
風間はだらしない笑みを浮かべている。
(とり憑かれている…………)
俺はそう思ったんだ。

彼が哀れでしょうがなかった。
(なんとか助けなければ……………)
しかし、突然、彼から離れた彼女は、いきなり床に崩れた。
彼女はさっき風間から吸ったと思われる血を、吐き出したんだ。

(いったいどうしたんだ…………)
彼女は恐ろしい顔をして風間を見た。
「だから、いったじゃない。
あなたの血は不味くてダメなの」
そして彼女はそう怒鳴った。

(????…………、いったい何が起こったんだ)
すると風間は彼女にこういったんだ。
「お願いしますよ。血を吸ってくださいよ」
風間は哀願していた。
(えっ…………………)

そして彼女はプイッと振り向くと、絵に戻ろうとしたんだよ。
しかし、風間は彼女の脚にしがみつき、帰そうとはしなかったんだ。
「あんたなんか好きじゃないんだから、あっち行ってよ」
彼女は嫌な顔をしてそういった。

俺には言葉がなかった。
(馬鹿馬鹿しい……………………)
そう思って倉庫を出ていったんだ。
風間はとり憑かれていたんじゃなく、とり憑いていたんだ。

恐ろしい話だ。
人間が魔物にとり憑くなんて。
俺はその日以来、風間には寄り付かないようにした。
幸い彼と一緒に仕事をすることは当分ないけどね。

えっ、番組かい。
放送するよ、来月ぐらいかな。
ああ、あの絵。
あの絵は駄目だよ。
あの日以来、なんどCGを作ってもあの美女の顔が迷惑そうな顔になっちゃうんだ。

もう、芸術じゃないよ。
よほど嫌なんだな、風間のこと、ははっ。
まあ、はじめだし、あまり怖くないけどさ。
でも、はじめのエピソードなしで、何度作っても、嫌そうな顔になるCGがあったら不気味だろ、ははっ。
じゃあ、次の人の番だな。


       (二話目に続く)