晦−つきこもり
＞一話目（真田泰明）
＞H7

そうか、俺もそのとき声をかけたんだ。
こんなとき、黙って見ている方がかえって、勇気がいるかもしれないよな。
「か、風間………」
俺は彼に声をかけた。
しかし、彼は答えず沈黙を保った。

倉庫の中はしばらくの間、静寂が続く。
（まだ、気にしているのか…………）
彼のために、何もしてあげることができない自分がくやしかった。
俺はもう一度声をかけようとしたんだ。
すると彼は振り返った。

「泰明さん………」
そういうと彼は俺を見たんだ。
「俺は彼女のところにいきます」
彼はそう俺に訴えた。
「ど、どういうことなんだ………」
俺は当惑した。

「僕はもう一度、あの絵を解析したんです。すると彼女のところに行く方法が記述されていたんです。俺はこの数日間、その呪文の解析に取り組みました」
彼は床に眼を落とした。
（魔方陣……………？）

風間の視線の先には魔方陣のようなものが描かれている。
「泰明さん、いろいろどうもありがとう。
これまでの恩は忘れません」
彼は呪文を唱えた。
すると彼の前にいきなり闇が沸いて来たんだ。
そして闇からあの絵の女が現れたんだ。

彼女は風間に微笑みかけた。
それを見て彼も満面の笑みを浮かべたんだ。
（風間……………）
そして彼は彼女に歩みよった。
風間が目の前にくると、彼女は無気味に笑い、そして豹変した。

「ま、魔女…………」
まさにそういう雰囲気だった。
俺は言葉を失った。
風間は目がうつろで見とれているようにも、操られているようにも見える。

そして彼女の周りにまた闇が現れると二人を包んだ。
彼は消えた。
風間はその魔女に連れ去られたんだ。
「風間………」
俺はしばらくそこに立ち尽くした。
そして、次の日から彼は行方不明になった。

真相を知るのは俺だけだ。
その夜起きたことを俺は誰にもいわなかったんだ。
俺は風間を救ってやれなかったことを後悔してた。
しばらくしてあの絵の調査はまた行われたんだ。
「泰明さん、風間の奴、とにかく変なんですよ」
あの絵の分析結果が出た。

その絵の画家のサインが復元されたんだ。
『ＮＯＺＯＭＵ　ＫＡＺＡＭＡ』
（あいつだ……）
この絵は未来の自分にあてたメッセージだったのかもしれない。
そして、その隅にはこう書いてあったんだ。

『泰明さん、どうもありがとう』
しかも、日本語で………。
（彼は中世の世界にいったのか………？　そして、彼女と幸せに……………？）
俺にはそう願うことしかできなかった。
これで俺の話は終わりだ。

まあ、怖いというより不思議な話だけどさ。
初めだし、まずは軽くね。
じゃあ、次の人、どうぞ。


　　　　　　　（二話目に続く）