晦−つきこもり
>一話目(真田泰明)
>K2

ははっ、はずれ!
まあ、俺達もそれならよかったんだけどさ。
正解はとても恐ろしい魔女の絵が描いてあったんだ。
でも当時のマニエリズム美術で、そういうモチーフがよく描かれていたんで気にもしなかった。

しかし、彼にとってはこれが悪夢の始まりだったんだ。
そのときのCGの担当者は風間望という男だった。
風間はデーター解析を終わらせると、その絵を表示したんだ。
そして彼はその絵が表示されたとき、震えて真っ青な顔をしたんだ。

「これは………………!」
彼は脅えていた。
「いったいどうしたんだ」
俺は彼の体を揺すりながらいったんだ。
そして、彼はやっと我に返った。
「泰明さん、こんな恐ろしい物が描かれていたなんて……」
風間は震えた声でそういった。

「この絵がいったいどうしたというんだ」
俺がそう聞くと彼は口ごもっている。
二人の間には沈黙が走った。
そして突然、風間は画面に映っているグラフィックを消したんだ。
「これは化け物です……」
彼はポツリとそういう。

何か知っているようすだった。
俺は彼を部屋の片隅にあるソファーにつれていった。
そして俺達はソファーに座ったんだ。
風間は椅子の前にあるテーブルを見つめ震えている。
しかし、さっきより少し顔色が良くなったようだ。

俺は腕を組んだ。
彼が落ちつくまで待つことにしたんだよ。
しばらくして彼は落ちついたのか、口を開いた。
「僕はこの化け物に会ったことがあるんです……………。あ、あれは小学校のときでした……」

僕は東北の片田舎で幼少時代を過ごしました。
「望、一人でおとなしくお留守番しているのよ」
お母さまはそうやって買い物にいったんです。
「うん」
僕はそう可愛く答えました。

母親のいない屋敷はいつもよりさらに広く、無気味に静まりかえっています。
僕はその恐怖をまぎらわせるように遊びました。
「ブーブー」
おじいさまから買っていただいた車で遊んでいたんです。
数ある玩具の中でお気に入りの一つでした。

そして一人で時間を過ごしていると、突然ドアが開いたんです。
僕の体に戦慄が走りました。
これから起こることに身構えたんです。
僕は強ばった首をようやく曲げ、ドアに続く廊下を凝視しました。

廊下を歩く音が、静かな家の中に響いたんです。
音は少しずつ大きくなり近づいて来ます。
すると、廊下の暗がりの中に人影が現れてきました。
影は足音と共に近づいて来ます。
そしてその人影は部屋の入り口に立ちました。

それが、あの化け物だったんです。
そのあとは思い出すのも苦痛です。
彼の顔は悲痛を浮かべている。
俺はこれから風間が何を語るか身構えた。
しかし風間は、これ以上語ることを拒否するように震えていた。

がそのとき、そのフロアーのドアが開いたんだ。
「ばあちゃん……………」
風間はそう叫ぶと椅子から立ち上がった。
あとでおばあちゃんに聞いたんだけど、子供のころ、風間の奴、おねしょだ、なんだって怒られていたらしいんだよ。

それが毎日だったんでその内、風間はおばあちゃんを怖がるようになったらしい。
まあ、結局あの絵画に描かれていたのは偶然だったんだ。
でも偶然って恐ろしいよな……………、ごめん。
しらけちゃったかな……、ははっ。
次の方どうぞ……、ははっ。


       (二話目に続く)