晦−つきこもり
>一話目(真田泰明)
>M3

確かに、そうだね。
普通の精神状態だったら、そう思うのはわかるよ。
でもさ、俺たちの精神はかなり追いつめられていたんだ。
俺達は逃げ出した。
この瞬間理性の糸が切れたんだ。
すると奴も走り出した。

「まてー」
彼はそういいながらバタバタ追って来たんだ。
まるで子供のような走りかたで……。
そして廊下を曲がろうとしたときだ。

うしろに物音がした。
そして俺達は音と同時に振り返ったんだよ。
彼が転んでいたのが見えた。
俺達は同時に脚を止めると大笑いしたんだ。

「わはははは、わはは」
「はっ、はははは、はははは」
もう腹を抱えるほど笑ったよ。
「おまえ誰だよー」
俺がそういうと片山も続いた。
「冗談は止めてくださいよ」
「はっ、はははは、はははは」
片山が笑いだすと、おさまっていた笑いがまた込み上げて来た。

「わはははは、わはは」
俺は涙で霞む目で彼を垣間見た。
あの人物は顔を真っ赤にしている。
さらに怒ったようだった。
体も震わしている。
「な、何がお・か・し・い・ん・だー!」
彼の怒りが爆発した。

まるで子供のように怒ったんだ。
「すまん、すまん」
俺は笑いをこらえながら謝った。
片山はまだ笑っている。
「おまえも謝れ!」
彼は片山に叫んだ。

「だ、だって、ははっ」
片山はまだ笑いがおさまらないようだ。
「もうゆるさないぞーーーーー」
彼はすねた子供のように怒った。
そして、泣きながら走ってどこかにいった。

「なんだあれ………」
俺は立ち去るのを唖然と見送った。
涙を拭きながら片山はまだ笑っている。
片山が立ち直るのを待つと、俺達はまた帰途についた。
そしてビルを出ようとしたとき、俺達二人の前にあの男が立ちはだかったんだ。

「なんだ、またおまえか………」
片山もさすがに気味が悪いらしく、今度は笑わなかった。
彼は、さっきとうってかわって、無気味な雰囲気を漂わせている。
「なんかいえよ………」
そういいながら片山は前に踏み出した。

すると彼は叫んだんだ。
「馬鹿ー!」
すると片山の頭は爆発するように消えたんだ。
そして首を失った彼の体が床に崩れ落ちた。
俺は立ちすくんだ。
こんなことになるなんて思いもよらなかった。

(つ、次は俺か……)
俺は茫然とした。
そして彼は、俺の目の前にくると、言葉を投げかけてきた。
「俺はそんなに変か?」
彼は聞いたが俺は何も答えなかった。
いや、答えられなかったんだ。
「そんなに変か……」
更に聞いた。

俺はやっとのことで首を振ったんだ。
「なら、なんで笑ったんだよ」
やや落ち着きを取り戻した俺は、ここは切り抜けるしかないと思った。
「……、いや、服がちょっと……」
俺はあたりさわりなく、そう答えた。

「あっ、そうか? 服がおかしいのか」
そして彼は自分の服を見回したんだ。
「今はどういう服が流行っているんだ」
俺はありったけの知識を彼に話した。
彼はその話に熱心に耳を傾けている。

そして話が終わった。
「そうか、わかった」
彼は何度もうなずいてそういったんだ。
「サンキュー」
そして彼はそういうと空気に溶けるように消えたんだ。
俺は助かった。
今でもこのときの出来事が何だったのかよくわからない。

これが俺が体験した怖い出来事だ。
もし街で緑と赤のストライプの服を着て、黄色い帽子を被った妙な男を見掛けたら、そいつかもしれないよ。
俺はあの時、取って置きのファッション情報だといって、教えたのがそれなんだ。

葉子ちゃんも気を付けろよ。
じゃあ、話はこれで終わるよ。
次の人、どうぞ。

「また、電話か?」
そういって泰明さんは電話をとった。
『もしもし、ああ片山か。またか、うん。ちょっと待っててくれ』
彼はこっちを振り返った。
「みんな話を進めてていいよ」
泰明さんは電話を続けた。

『じゃあ俺が行くまで保留しておいてくれ。じゃあ、そういうことで。え、そうじゃなくて……………………………』
電話はまだ続いている。
(片山って、死んだ人じゃ………)
私がそう思っていると、泰明さんはこっちを振り向いて無気味に笑った。

みんなは気付かないようだ。
次は誰が話すのだろう。


       (二話目に続く)