晦−つきこもり
>一話目(真田泰明)
>P2

冗談のつもりで言ったんだろうが、そのとおり宇宙人なんだよ。
まあ正確には宇宙人の様なものなんだけど。
作品の出所すらよく分からないものが多いから、最近のものが紛れていただけだと思い放っておいたんだ。

でも他の物を年代鑑定に出すとき、いっしょに持って行ってもらったんだ。
しかし、その鑑定結果は、ルネサンス時代の物と証明するものだったんだよ。
だからどうだ、でもないんだよね。
このまま番組にしたら、どこぞの番組といっしょだしさ。

それに追跡調査するにも、入手経路すらはっきりしないからね。
絵に使われている材料は、何の変哲もない当時のものだった。
調査の材料が少なすぎて、どうしようもなかったんだ。
しばらく、そのまま放置していたんだけど、あるときADの風間って男が変なことをいいだしたんだ。

「絵について調べたいから休暇を貰いたいんですけど」
「何か手掛かりがあるのか」
俺がそう尋ねたら、風間はこういったんだ。
「その上に描かれている風景は、スコットランドに間違いありません」
ちょっと考えたけどね。

俺も気になったし、取材扱いで行かせることにしたんだ。
それに何かわかれば、また番組に使えるしな。
そして、風間は数日後、イギリスに発ったんだ。
でも、彼は予定の二週間たっても帰ってこなかった。

俺はイギリス支局を通じて、彼の行方を追ったんだけど、行方は知れなかったんだ。
取り敢えず、イギリス警察からの連絡を待つことにしたんだけどね。
しかし、風間が発ってから一ヶ月程たってからだ。
突然、連絡があったんだよ。

「今夜、局にうかがいます…………」
それだけ言って電話を切りやがった。
どうしようかと思ったんだけど、取り敢えず待つことにしたんだ。
行方不明だった理由が気になったしね。

その夜、9時ごろかな。
スーっと、部屋に入って来たんだ。
「僕は自分の愚かさに気付きました」
彼はそう言って近づいてきたんだ。
そして、彼は俺の前に来ると足元にうずくまった。

「いったいどうしたというんだ」
俺は彼の肩に手をあて、そういったんだ。
風間は泣きながら何回も謝っていた。
「すいません………、すいません………」
何を聞いても謝るばかりだった。

俺はしばらく彼が泣きやむのを待ったんだ。
彼の泣き声を聞きながら視線を部屋の中で泳がせていた。
そして彼が泣きやむと、もう一度語りかけたんだ。
「いったいどうしたというんだ」
すると彼はもう一度謝った。

「すいませんでした」
それからゆっくり顔を上げたんだ。
あの絵にそっくりな顔がそこにはあった。
「いったい何のつもりだ」
俺は声を絞りだしてそういったんだ。
するとやつはスクッと立ち上がった。

「な、何のつもりだ」
俺は恐怖を隠しながらも、あとずさりしたんだ。
「すいませんでした…………」
彼はまたそういいながら泣き出したんだ。
俺はこれから起こることに身構えたんだ。

(寄生された………)
そんなSFみたいなことを考えた。
しばらく、沈黙の中で泣き声だけが響いていた。
この緊張感に耐えられず、俺はやっとのことで言葉を発したんだ。

「その顔は……、どうしたんだ……」
すると彼は顔に手をあてたんだ。
そして泣き声は更に大きくなった。
風間のその顔はお面だったんだ。

「すいません。飛行機に乗り遅れて………」
彼の目には涙が浮かんでた。
「今日まで家に隠れていました。
すいませんでした」
「………………………………… …」
何もいえなかったよ。
(こんな奴がいたなんて………)
奴は朝までそこで泣いていたんだ。
それは恐怖の一夜だった。

そして朝方やっと気を取り直してさ。
取り敢えずそのことは不問にしたんだ。
彼を責めたら今度は何をしでかすかわからないからな。
今でもこの話を思い出すと体が震えだす。
だってそうだろ、次の便でいけばいいじゃないか。

なんでそのぐらいで家に一ヶ月も閉じこもるんだ。
その日から俺は怖くて彼に近づかなくなった。
えっ、こわくない。
そうかな〜、ははっ。
まあ、一番はじめだしさ。
こんなところで。

えっ、あの絵。
さあー、そういえばあの後うやむやになったな………。
何かわかったら教えるよ。
じゃあ、次の人どうぞ。


       (二話目に続く)