晦−つきこもり
>一話目(前田和子)
>A3

まあ、そりゃ研究した人はいたんだろうけど。
そんな漠然とした理由じゃないわよ。
いろんな折り方があるのは、昔から様々な儀式に使われてきたからなの。
例えば、そうねえ……婚約の儀式とか。
くわしい内容は後でね。
まずは、伊佐男と舞の話から。

……昔、この村には伊佐男と舞っていう兄妹がいたの。
伊佐男は数えで二十一才、舞は十六。
二人は、とても仲がよかったの。
伊佐男は木こりでね。
ある日仕事に行く時、舞が山の風景を見たいといったから、一緒に連れて行ったの。

ところが。
崖の淵で、舞があやまって落ちてしまったのよ。
下には大きな川。
川は急流で、すぐに滝へ続いていた。
そして舞の姿は、どこにも見あたらなかったの。
舞は、滝の下に落ちてしまったようだった。

これでは助けられない。
伊佐男はしばらく茫然としたわ。
舞が落ちた崖を見つめながら、ずうっとそこにいたの。
そうしているうちに夜になってね。
伊佐男が帰ろうかどうか迷っていた時。
舞が現れたの。

正確にいうと舞ではないわ。
舞は確かに崖から落ちたはずだから。
彼女は、舞そっくりだったけど。
傷一つついてはいなかったんだもの。
1.娘の名前を聞く
2.家に誘う