晦−つきこもり
>一話目(前田和子)
>F6

「……あらそう。じゃあ、この部屋で何かが出たら、葉子ちゃんに犠牲になってもらおうかしら」
和子おばさんは、そういったきり黙り込んでしまった。
…………どうしたんだろう。
怒ったようには見えないけど、続きを話してくれない。

……困った。
「あの、和子おばさ……」
私が口を開くと、和子おばさんは黙ってという合図を出した。
そして、じっと私の後ろの壁を見る。
緊張した表情で。

何だろう。
何かいるのかしら。
みんなで、和子おばさんの目線を追った。
……私には見えない。
特に、霊か何かがいるようには見えない。
でも……感じる。
首筋のあたりで、何かがもぞもぞと動いているのを。

そして、熱い感触。
温まった素肌のような……。
生ぬるい感触がある。
「あの……」
もう一度口を開くと、今度は口のなかにそれが入ってきた。
生ぬるい感触は、口の中でもぞもぞとうごめいている。

目の前が、ふいに暗くなった。
めまいがする。
この部屋には、本当に何かがいたのね。
それで、私が犠牲になるの?
……私が倒れたら、みんな怖い話なんてやめるだろうな。
そんなことを考えながら、私は床に倒れこんだ……。


すべては闇の中に…
              終