晦−つきこもり
>一話目(前田和子)
>G4

あら、本当?
いいわね。
そういうのって、ないにこしたことはないもんね。
でも、舞は完全に誤解されてしまってね。
「ち、違います! 私は何も……」
何も知らないといいはったんだけど、だめだったのよ。

舞はウソをついている。
村人はそう考えたの。
「巫女にあるまじき行為だ」
そういって、舞を巫女の座からおろしたの。
慌てたのは伊佐男神よ。

「舞を疑うとは……なんて奴等だ!」
舞に神託をしてもらいたいという気持ちと、村人に対する怒り。
そんな思いがあふれて、伊佐男神は、思わず天災を起こしてしまったの。

激しい台風で、何人もの人が亡くなったわ。
「伊佐男神がお怒りなのか?」
村人は、口々にいいあった。
新しい巫女が神託をしたわ。
でも、原因はわからなかった。
そこで舞は、こっそり神託をすることにしたの。

神託によって捧げたものが二度も自分の住む社の前にあったのは、何か意味があるのだろうと思ってね。
舞が再び神託を始めると、台風はぴたりとやんだわ。

「舞……よかった。
又神託をしてくれるんだな」
伊佐男神はそういって、再び折り紙で花を折ったの。
もう一度、舞にプレゼントすれば、気持ちが伝わるかと思ってね。

次の日。
舞は、神託ででた花を一人で用意した。
それを祭壇に置き、隠れて見ることにしたの。
秋だったから、夜風が冷たく身にしみた。
台風明けで、湿気もすごかった。
舞は震えながら待ったの。

すると深夜、祭壇に置いた花が、スーッと動き始めたの。
見えない何かに操られているかのように。
(伊佐男神……?)
舞は、移動する花の後を追った。
すると花は、舞の住む社の中に入っていったの。
花は、丁寧に置かれるように、ふわっと舞いおりた。

(………)
舞は思ったわ。
もしかして、今までの行為は、伊佐男神のプレゼントだったのかもしれないと。
だけど、舞の心は晴れなかった。
彼女は肩を落とすと、ゆっくりと歩き始めたの。
決心したような表情をして。

……翌日、舞は祭壇の間で自殺していた。
(……なんでだ? 舞、わたしの気持ちが通じたはずではなかったのか?)
伊佐男神は、舞の死に茫然としたわ。
でも、もう遅かった。

台風でたくさんの人々が命を落としたこと。
伊佐男神が怒りにかまけて起こした天災。
それを舞は、自分の死で償おうとしたのよ。

彼女は伊佐男神からもらった花をかたく握りしめたまま、喉に短剣を突き刺して死んでいたそうよ。
それから伊佐男神は、二度といけにえを要求しなくなったの。
でも、ずっと変わらずに、天災から人々を守るようになったんだって。

ただ……毎年舞の命日の日だけは、必ず雨が降るようになったの。
その日は、みんな家に閉じこもってじっとしているのよ。
みんなが舞のことを忘れてのうのうとしていたら、いつまた伊佐男神が台風を起こさないともかぎらないからね。
……話はこれで終わりよ。
次は誰の番?


       (二話目に続く)