晦−つきこもり
>一話目(山崎哲夫)
>A2

「ええ!? 今、なんていった?
いや、別に耳が悪いわけじゃないんだが、信じられないことが聞こえたから。駄目だよ、葉子ちゃん。休みの日にごろごろしてちゃ。
そんなことしてると、ぶくぶく太っちゃうぞ。
……ま、葉子ちゃんなら心配いらないみたいだけど。

でも、体に悪い。若いんだからさ、どうだい、ここで山登りなんか。
山登りはいいぞぉ。山は男の浪漫だ。おっと、葉子ちゃんは、女の子だったな。ごめん、ごめん。でもな、山は恐ろしいぞ。山は不思議なところだ。何が起こるかわからない。

これから、話す話なんだが、やっぱりそんな山で起こった怖い話なんだ」
哲夫おじさんって、いっつもこう。
自分の考えを人に押しつけるんだもの。
それにデリカシーって言葉、知っているのかしら。
だから、いつまでたっても、お嫁さんの来手がいないんだわ。

だけど、哲夫おじさんの今の顔。
あんな真剣になった哲夫おじさんの顔、はじめてみました。
そして、哲夫おじさんは、山に関する怖い話を始めました。

これはな、ある大学生グループが山に登ったときの話だ。
自分らの中じゃ、結構有名な話なんだがな。
そのグループは、大学の山岳部の連中で、夏休みを利用して山に登っていたんだ。
男三人、女二人の、五人組のグループだった。

その日は、とても天気がいい日で、絶好の登山日和だったんだ。
彼らは、とても気分がよかったと思うよ。
青い空、澄んだ空気、どこまでも続く白い峰々。
流れる雲に思いを寄せて、我が目指すは遥かなる頂……。

どうだい、葉子ちゃん、山っていいだろう?
1.山っていいわ
2.私には興味がないわ