晦−つきこもり
>一話目(山崎哲夫)
>B7

お、よく気がついたな、葉子ちゃん。
自分は、さっき谷村君達は、追い抜かれたといったよな。
そうなんだよ、谷村君達はいつの間にか、あの人たちに何度も追い抜かれていたのさ。
谷村君達は、そのことに気がついていなかった。

あまりにも疲れていたからか、それともあの人たちの仕業なのか……。
とにかく、谷村君達は、知らないうちにあの人たちから、何度も追い抜かれていたのさ。
谷村君は、追い抜かれるたびに何か変な感覚におそわれた。
それがなんなのかは、わからなかったんだ。

いくら考えても……。
でも、ついに気がついたんだ。
いつの間にか、自分たちは、あの人たちに追い抜かれ続けているって。
それまでは、自分たちが何度も追い抜いていたのに……。
谷村君は、みんなにそのことを話そうとしたんだ。

「おい! 変だぞ……。わ、わぁっ!!」
谷村君は、腰が抜けるほど驚いた。
いつの間にか、みんなの顔が変わっていたんだ。
その顔は、まるで今まで自分たちが追い抜いていた人たちのような顔をしていた。

みんな五十歳ぐらいのおじさん、おばさんの顔になっていたんだ。
みんなもお互いの顔を見合いながら、驚きの声を上げている。
谷村君は、自分のことも気になって、自分の顔もなでてみたんだ。
すると、どうだ。

さわり慣れている脂ぎった自分の顔が、まるで誰かの顔とすげ替えたかのように、パサパサとした、別人の顔のようになっていたんだ。
おまけに、顔中に深いしわが刻み込まれている……。
どうやら、年をとったようになっているのは他の人たちだけではなく、谷村君自身も同様だったんだ。

(どうしてこんなになってしまったんだ……)
谷村君は、ぼう然とした頭の中でそう考えていた。
その時だ。
また、後ろから、あの人たちが追いついてきた。

その人たちは、黙ったまま、なるべく自分たちの方を見ないようにしながら、おそるおそる抜いていこうとしていたんだ。
谷村君達は、その人たちの顔を見てみたんだ。
「!!」
みんな、驚きのあまり、声も出せなかった。

谷村君達を追い抜いていこうとしていた人たちは、若いままの自分たちだったんだ……。
………………………………。
葉子ちゃん、山って不思議だろ?

谷村君達は、どうなったのかって?
ああ、知っているよ。
無事に下山したさ。
少し予定の時間をオーバーしたけどな。
今でも普通に学校に通って、楽しくやっているらしい。

でも、下山した谷村君が、本物の谷村君かどうかは、わからないよ。
もしかしたら、違う谷村君なのかもな。
それから、谷村君達は、二度と山には登らなかったらしい。
みんなから変人扱いされるほど、山が好きだったのにな。

……あんなことを体験したから、山が怖くなったのか、それとも、好みが変わってしまったのか……。
それは、誰にもわからないさ。
谷村君に聞いてみないとな……。

さあ、これで自分の話は終わった。
次は、誰にするんだい?
葉子ちゃん……


       (二話目に続く)