晦−つきこもり
>一話目(山崎哲夫)
>G7

違う! 違うよ、葉子ちゃん。
もう、おじさん達は、目の前まで迫っていたんだ。
転んでしまった谷村君達が、今から逃げても間に合わなかったんだ。
谷村君は、覚悟を決めた。
そして、逆におじさん達に飛びかかっていったんだ。

結果は、あっけないものだった。
体力のある谷村君達の方が、何倍も有利だったんだ。
谷村君達の前には、死体が転がっていた。
みんな、ナイフでつき殺されている。

谷村君の手には、真っ赤に染まったナイフが握られていた。
「これからどうする?」
仲間の一人が、谷村君に声をかけた。
そいつも、返り血を浴びて、服の至る所に赤い斑点ができている。

「どうするもなにも……ここから出る方法を探すしかないだろう」
谷村君は、一言そういうと、下に向かって歩き出したんだ。
しばらく行くと、だんだんと霧が晴れていくような気がしてきた。
谷村君達は、もしかするとと思い、早足で山を下りていったんだ。

そのあと、谷村君達は無事に戻ることができた。
なぜだかわからないけど、たぶんあの人たちを殺したからじゃないのかなと思うよ。
……谷村君は、いっていたらしいよ。
今でも、人を刺したときの感触は、忘れられないって。

谷村君はな、今でも山に登り続けているんだそうだ。
あんな目にあったのにな。
でも自分には、谷村君は純粋に山を楽しんでいるんじゃないような気がするんだ。
谷村君が山に登った日は、必ず遭難者が出るらしいからな。

その遭難者の死体は、いまだに見つかった試しがないんだ。
もしかしたら、谷村君が……。
ま、これは、自分の考えすぎかもしれないがな。
さあ、葉子ちゃん。
自分の話はこれで終わりだ。
次は、誰の話を聞くんだい?


       (二話目に続く)