晦−つきこもり
>一話目(鈴木由香里)
>Z5

よくわかったね。
やっぱり何か知ってるんだ?
ドアに挟まれるとか、閉じ込められるっていう、こまごました事故が続出したんだって。
押してもいない階で止まるなんてのは、ざらだったらしいじゃん。

あんまりにも頻繁に起こるんで故障じゃないかって、何度も修理してもらうんだけど、あいかわらず事故は続いたんだって。
工事の人は、どこも故障してないっていうしさ。
それで、エレベーターを箱ごと取り替えようってことになって、やっと、男の子の死体が見つかったんだ。

そのエレベーターっていうのが……。
って、ここまで話した時!
エレベーターが止まったんだ。

ピンポーンという軽い音がして、ドアが開いた。
主任は驚いてたけど、何のことはない、目的の階に着いただけだよ。
私は、彼をせかして倉庫に入ったよ。
そしてさっさとマネキンを用意し、もう一度エレベーターに乗ろうとしたんだ。

……ドアが半開きのままで止まってる。
「ねえ、宮本さん。ドアを開いてくれませんか?」
私は、とびっきりしおらしく、お願いしてみたよ。
さんざん、だらしない所を見られてるからさぁ、主任は、私の前に立つと、男らしいところを見せようとドアに手をかけた。

そして力を込めて……。
彼の想像に反して、ドアは簡単に、あっさりと開いたんだ。
主任は、勢いあまってエレベーターの中へ……。
運のない奴。
そこには、エレベーターの箱が来てなかったんだよ。
どこか、よその階に呼ばれていたんじゃん?

彼はそのまま、落ちちゃったよ。
親切な私が、守衛室からガードマンを連れて戻った時には、もう心臓は止まってた。
首の骨が折れてたから即死だね。
不思議なことに、誰も私を疑わなかった。

私が主任を突き飛ばしたとか、箱が来ていないのを知ってたとか、誰もいわなかった。
おかげで、殺人犯になり損ねちゃった。
せっかくのチャンスだったのにさぁ。
ま、好きじゃない人間が、いなくなってくれたからいっか……。

主任が死んだ。
これだけは、動かしようのない真実だしね。
さあて、私の話はここまで。
次は誰にするつもり?


       (二話目に続く)