晦−つきこもり
>一話目(藤村正美)
>B5

まあ……うらやましくないですって。
箱の、本当の秘密に気づいたんですの?
……いいえ、そんなはずはありませんわね。
何か変だと思っただけなのでしょう。
その勘の良さに免じて、本当の秘密を教えてあげますわ。

ほら、見てくださる……私の髪。
まだ目立たないけれど、何本か白髪があるでしょう。
よく見ないとわからないけれど、目元にも小じわができていますの。
箱をもらう前には、こんなものなかったのに。

毎日、金のコインが現れるのと同時に、肌の張りが失われていくのがわかります。
そうなんです。

あの箱は、私の若さを……生命力を吸い取って、金に変えているのですわ。
このままでは、私はもうすぐ、おばあさんになってしまうでしょうね。
……なぜ、いい切れるのかって?

実は私、中山さんの遺族の方に会ったんですの。
その方に聞いた話なんですけれど……。
中山さんは、本当はまだ、三十歳だったんですって。
お年寄りに見えたのは、あの箱に若さを吸い取られた結果だったのですわ。

彼女は、どうして私に、箱をくださったのでしょう?
……もしかしたら、彼女を見て思い浮かんだ、あの風景。
あれは、本当に見た風景だったのかもしれませんわ。
私と彼女は、遠い昔に会っていたのではないでしょうか。
今となっては、確かめるすべも、ありませんけれどね。

とにかく、この箱は大事にしますわ。
中山さんの形見ですし……何といっても、純金の輝きは美しいですものね……うふふ。
それでは、私の話は終わりますわ。
次の方の話を聞きましょう。


       (二話目に続く)