晦−つきこもり
>一話目(藤村正美)
>E7

そうかもしれませんわね。
当事者の私たちは、それどころじゃありませんでしたけれど。
火を消すのに、夢中だったんですもの。
医師の一人が、部屋の隅にあった消火器を持ってきたんです。
そして、火を消そうとしました。

すると、消火用の液剤を避けるように、炎が身をよじったんですわ!
炎はそのまま、医師を覆ってしまいました。
「ぎゃああっ」
この世のものとは思えない悲鳴でしたわ。

……炎が消えたとき、そこには何も残っていませんでした。
燃える中山さんが横たわっていたシーツも、染み一つなく真っ白です。
中山さんと医師は、消えてしまったのですわ。

どういうことなのか、未だにわからないけれど……。
もしかしたら、彼女は今、初恋の青年と一緒なのじゃないかしら。
なぜだか、そんな気がするんですの。
私の話は、これで終わりですわ。
次は、どなたの番かしら?


       (二話目に続く)