晦−つきこもり
>一話目(前田良夫)
>E5

チェッ、冷たい奴だなあ。
県大会にも出たことあるんだぜ。
とにかく、俺は走り続けたんだ。
ところが、目の前の廊下が、二手に別れているじゃないか。
「小坂、左だっ!」
俺は、とっさに叫んだよ。

左の廊下には、見覚えがあった。
出口は、たぶんあっちのはずだ!
俺たちは、左の廊下へ飛び込んだ。
廊下の向こうに、玄関が見えた。

やった、出口だ!
俺たちは、もつれ合うように走った。
玄関にたどり着いて、扉を引っ張った。
開かない!?
鍵がかかってるんだ。
あせって、指が震える。

俺は必死に、差し込み錠を回したよ。
カチャカチャいう鍵の音に混じって、息づかいが背後に迫ってきた。
あと十メートルで追いつかれる。
そのとき、鍵が外れた。
俺は急いで、扉を引き開けた。
蒸し暑い空気が押し寄せてくる。
あとは外に出るだけだ。

そのとき、俺は強い力で突き飛ばされた。
小坂が、ひきつった顔で叫んだ。
「このままじゃ、二人とも捕まっちゃう! 俺は死にたくないんだ!」
そして外へ飛び出した。
自分が助かるために、俺をおとりにしようとしたんだ。

だけど。
一歩飛び出した小坂が、その場で棒立ちになった。
「ぎゃあーーーーっ!!」
ケモノのような叫び声。
俺が見つめる前で、奴の体が一瞬で消えたんだ。
まるで、粉になって吹き飛ばされたみたいだった。

何が起こったんだ?
俺は馬鹿みたいに口を開けていた。
突然、甲高い笑い声が響いた。
振り向くと、骸骨が笑っていたんだ。
俺と目があうと、歯をカタカタいわせながら、ゆっくりと消えていった。

……だんだん、どういうことだかわかってきた。
俺たちは、罠にかかったんだ。
小坂が俺をおとりにしたように、何者かが、あの骸骨をおとりにして、俺たちをおびき寄せたんだろう。
もう少しで、俺も罠にかかるところだった……。

夜が明けて、玄関に座り込んでる俺を、立川の家の人が見つけてくれたんだ。
でも、それっきり小坂は見つからなかった。
立川との仲も、おかしくなっちゃってさ。
……というより、俺が一方的に避けるようにしたんだけど。

だって、あいつの一言から、こんなことになったんだぜ。
まさかとは思うけど、自分の家に何かいるのを知っていて、わざと俺たちを呼んだとも考えられるじゃないか。
今はただ、新学期のクラス替えに期待するだけだな。
……俺の話は終わりだぜ。
次は誰が話す?


       (二話目に続く)