晦−つきこもり
>二話目(真田泰明)
>L9

そうだな、映ってなければ日記の通りになる。
そしてその後、演技し、片桐を殺し、スタッフが見続けたものは、幽霊ということになるな。
しかし、なぜ直接彼を殺さず、ドラマの中で殺したんだろう。
奴等にとって、ドラマの方が現実より大切だったのかもしれないな。

でも制作中止になったんだよね。
浮かばれないよな。
そういえば、あのドラマのディレクター、事故死したな………。
制作中止にされて、坂田が怨んだのかな………。
ということは、次は俺の番か。
まさかな……。
じゃあ、次の人の番だな。

……程なく、みんなの話が終わった。
最後は私の番だったけど、七つ怖い話をすると縁起が悪いということで無しになった。
(助かった、怖い話なんて知らないもんね。それに泰明さんの前で恥かきたくないし…………)
そしてみんなは解散して、床についた。

次の日、集まった親戚たちはそれぞれ、家路につく。
私たちも昼過ぎに、ここを後にした。
また、いつもの生活が始まった。
春休みも、もうすぐ終わり。
高校に行く準備も、もうだいたい終わっている。
そんなある日、泰明さんから電話があった。

「葉子ちゃん、元気?
明日、暇かな。ドラマの撮影見に来ない?」
泰明さんから、撮影の見学の話だ。
私は見学させてもらうことにした。
次の日の朝、泰明さんが迎えに来てくれた。

「やあ、葉子ちゃん、朝早くごめんね」
泰明さんは優しく笑うと、ドアを開け、私を車にまねいた。
「じゃあ、行くよ。多分夕方には終わるから、飯でも食おう」
彼は優しく笑ってそういうと、車を発進させる。
そして、数時間後、スタジオに着いた。

今日はスタジオのセットでの撮影ということだった。
セットの中は、明るいライトで照らされている。
「泰明さん、娘さんですか、ははっ」
スタッフの一人が泰明さんに話しかける。

「何いっているんだよ。親戚の子だよ。俺がまだ一人なのは知っているだろ、ははははっ」
「ははっ、隠し子ってこともありえますよね」
「ばーか」
泰明さん達は、そんな感じでふざけあっている。

「じゃあ、葉子ちゃん、しばらくここで見学してて……」
「あっ、はい……」
泰明さんは椅子をすすめると、セットの方に向かった。
「星野さん、あの例の件…………」
彼がそこにいる偉そうな人に話しかけたとき、突然、天井からすごい音がした。

天井から吊されているライトが揺れていた。
「泰明さん、危ない!」
私は力いっぱい叫んだ。
そのライトは泰明さんをめがけて落ちてくる。
次に私が目を開けたとき、泰明さんは頭から血を流して倒れていた。
私は彼に駆け寄る。

そして泰明さんの頭を抱え、わけのわからないことをわめく。
「泰明さん、泰明さんが呪いで殺された……、泰明さんが殺された……」
私の意識は遠のいていった。
「葉子ちゃん、葉子ちゃん……」
私が目を開けると、泰明さんの顔があった。

(あれ……、夢だったのかな……)
ここはあの日の開かずの間だった。
「どうした、葉子ちゃん、居眠りか……、俺の話おもしろくなかったのかな、ははっ。傷つくよな」
泰明さんは笑っている。

「ごめんなさい……、ちゃんと聞いていたよ……、サスペンスの話でしょ」
「何をいっているんだい? 撮影中に死んだ女優の話だろう」
哲夫おじさんが、そういった。
(えっ……、たしかに……)
私は泰明さんの話が始まったときから、ずっと居眠りしていたのだろうか……。

(なにっ……、私の服に血が……)
しかし、それは見る見るうちに薄くなり、消えてしまった。
(もしかしたら、予知夢……)
泰明さんの話は、今終わったところらしい。
次の人の番だわ。


       (三話目に続く)