晦−つきこもり
>二話目(前田和子)
>I8

「冗談じゃないよ! なんで僕がそんなこと……!」
秋山君は、思い切りつっぱねたの。
ヒナキちゃんの言葉は悪い冗談だ、無理にでもそう思おうとしたのね。
「そう。私のいうことが聞けないの? じゃあいいわ。あなたも犠牲にしてあげる」

ヒナキちゃんは、冷酷に微笑んだの。
するとね、目の前の小さな墓から、田崎君の手と、小さな子供の手がはい上がってきたの。
手の霊は、何かを探すようにうごめいていたのよ。
「ほら、ここよ。餌はここよ……」
ヒナキちゃんは、手の霊を秋山君の所まで導いたの。

手の霊は、秋山君を掴むと、握ったり開いたりしだしたわ。
その動きにあわせて、何かを食べるような、ごりごりという音が辺りに響いたの。
「う、ぎゃあ、ああ……っ」

そして秋山君は、手の霊に食べられたように、消えてしまったのよ……。
……あのね、この様子を見た人がいて、私有地が調査されたんだけど。
どうやら調査隊は、ヒナキちゃんに脅されて逃げだしたみたいよ。

「餌にしてやる」
とかなんとか、いわれたんだって。
今でも、ヒナキちゃんがいる私有地には、小さなお墓があるらしいわ。
夜には、時々声がするそうよ。
「助けて……」
ってね。

それが墓から聞こえてくるのか、新しい犠牲者のものかはわからないわ。
でもヒナキちゃんは、あの墓をそのままにしているみたいよ。
気に入らない人が私有地に入ってきたら、お墓から出る手に処分させているんじゃないの?

嫌よね、そんなふうにはなりたくないわ。
あんた達にも、気をつけてもらわなきゃ。
この村で、空き地みたいなところでうろうろしては駄目。
それにしても……ヒナキちゃんに気に入られる人なんているのかしら。

ヒナキちゃんに会って、無事に済んだ人の話を私は知らないのよ。
じゃあ、そろそろ次の話を聞きたいわね。
次は、誰の番かしら?


       (三話目に続く)