晦−つきこもり
>二話目(前田和子)
>L4

あら、あせっちゃ駄目よ。
まだ、二日分の出来事しか話してないでしょ。
答えは三日目。
……でも、中沢君は不安だったの。
もう少しで、四日目になるってね。

とてもじゃないけど、次の日も私有地に行くなんてできなかったわよ。
でもね、又ヒナキちゃんに会うことになったのよ。
家に帰った中沢君は、玄関の近くまで来てふと足を止めたの。
そこには、誰かが立っていたんだもの。

誰かが、歩く自分をじっと見ている気がしたのよ。
……ヒナキちゃんだったの。
彼女は、中沢君のキーホルダーを持っていたわ。
「……どうして家がわかったの?」
「………」

中沢君の問いに、ヒナキちゃんは答えなかったの。
その代わりこういって、中沢君をじいっ……と見つめたのよ。
「今日は何をして遊ぶ?」
……ねえねえ、どう?
こんなこといわれたら。
『はあ?』って思うしかないわよねえ。

中沢君は、しばらく押し黙ってしまったの。
「……ヒナキちゃんは、いったい何なの?」
それでもやっと口を開いた中沢君に、ヒナキちゃんは何も答えなかったの。
二人は、しばらく黙ってそこにいたのよ。

十分くらいたってから、ヒナキちゃんは中沢君に背を向けてね。
一言、呟いたのよ。
「あなた、小さな友達に連絡をとった?」
「えっ?」
中沢君がヒナキちゃんに聞きかえすと、彼女は走ってどこかに行ってしまったの。

追いかけるのもおかしな気がして、中沢君は彼女の後ろ姿を黙って見送ったのよ。
「明後日はあの子と遊べない。
あの子がいなくなるからね」
ヒナキちゃんの歌に、いいようのない不安をおぼえながらね。
それでね、中沢君は、急いでキーホルダーをくれた友達に電話したの。

すると、友達はこんなことをいったのよ。
「僕、明日転校するんだ……」
(なんだ、いなくなるってこういうことだったのか)
中沢君は、ひとまずホッとしたの。
だから、次の連絡先を聞いてから、そそくさと電話を切ったの。

「中沢君、新しい学校はどう?」
そんな友達の言葉を軽く受け流してね。
でも……。
中沢君は、それを後悔することになったのよ。
転校するっていっていた友達は、車で移動中、事故にあってしまったの。

乗っていた家族は、全員即死よ。
かわいそうよねえ。
ヒナキちゃんは、その事故を教えてくれようとしていたのかもしれないわね。
それから中沢君がヒナキちゃんを訪ねても、彼女と二度と会うことはなかったの。

でも、その後中沢君には、話し相手ができたのよ。
友達が亡くなった日、中沢君の小さな友達……キーホルダーに巻かれたあやとりの糸が、ふいに取れてしまったんだって。
それ以来、そのキーホルダーが時々しゃべるようになったそうだから。

「中沢君、新しい学校はどう?」
なんてね……。
私の話は終わりよ。
次は、誰の番……?


       (三話目に続く)