晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>A9

おお、自分と同じ答えだ!
さすがは、葉子ちゃんだ。
「コンポタスープに山菜御飯、それから、鳥の鍋にハンバーグ。豆腐にピラフ……えっとそれから、そうだ、ラーメンと鯛のお頭!!」
自分はすかさず、昨日の晩の献立を並べ立てたんだ。
途端に、風間の顔が赤くなった。

「な……なんでそれを知っているんだ!!
……そうか、わかったぞ。いつも厨房のゴミをあさっているのは、おまえ達の仕業だな!!」
「な……違う!!」

「ふふふ……。僕は、なんて運のいい男だ。この森の魔物をとらえることができた上、いつもゴミ捨て場を荒らしていた狸を退治することができるとは。まさに、一石二鳥だ」
(駄目だ。この馬鹿には、なにをいっても通じない……)

自分は、そう実感したよ。
一斉に銃口が向けられる。
(もう、駄目だ)
「ってェーーッ!!」
風間の合図と同時に、一斉に銃声が轟いた!
「………………………………」
(……あれ?)

目を開けてみるとな、そこには誰もいなくなっていたんだよ!
さっきまで、あんなにいた人たちがだぞ。

しかも、目の前にも風間がいたんだ。
隠れるにしても、気がつくはずだよな。
それなのに、一瞬のうちにいなくなってしまったんだよ。
……なんだったんだ、今のは……。

まさに、狸に化かされた気分だったよ。
自分らは、夢でも見たのだろうということにして、旅館に戻っていったんだ。
仲間の誰もが、納得したわけではなかったんだがな。
そうとでも思わない限り、説明のしようがなかったんだよ。

旅館に戻ると、玄関で風間が待ちかまえていた。
自分らは、あれは夢だと言い聞かせていたけどな。
風間と目を合わせるのは、やっぱり怖かったよ。
「やあ、おかえり。どうだった?
楽しかったかい?」

風間は、いつもの調子で尋ねてきたんだ。
「どうしたんだい?
顔が青いよ」
風間は、自分達のことを心配げに見ていた。
自分らは、安心したね。
あれは、やっぱり夢だったんだ。

そう思うとな、なんだか急に疲れが出てきてな。
自分らは、『なんでもないです』といって、部屋に戻ろうとしたんだ。
風間の横をすり抜けて、玄関を上がろうとしたとき。
奴はいったんだ。

「今夜は、なにが食べたい?
狸汁かい?
ククククク……」
そのまま、風間は去っていった。

あのときほど、ぞっとしたことはなかったね。
さあ、これで自分の話は終わり。
葉子ちゃん、次は誰にするの?


       (三話目に続く)