晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>B10

そう。
その通り。
自分は、昨日の晩の献立をいってみたんだ。

「コンポタスープに山菜御飯、それから、鳥の鍋にハンバーグ。豆腐にピラフ……えっとそれから、そうだ、ラーメンと鯛のお頭!!」
自分はすかさず、昨日の晩の献立を並べ立てたんだ。
途端に、風間の顔が赤くなった。

「な……なんでそれを知っているんだ!!
……そうか、わかったぞ。いつも厨房のゴミをあさっているのは、おまえ達の仕業だな!!」
「な……違う!!」

「ふふふ……。僕は、なんて運のいい男だ。この森の魔物をとらえることができた上、いつもゴミ捨て場を荒らしていた狸を退治することができるとは。まさに、一石二鳥だ」
(駄目だ。この馬鹿には、なにをいっても通じない……)

自分は、そう実感したよ。
一斉に銃口が向けられる。
(もう、駄目だ)
「ってェーーッ!!」
「……あれ?」
「ククククク……。ぶ、ぶあははははははははは。ひぃ、ひぃ……」
目を開けると、風間が腹を抱えて、笑っていたんだ。
「ど、どういうことだ!?」

自分は、思わず怒鳴ったんだ。

「あはははははは。まだ気がつかないのかい?
おめでたいやつだな。君たちは、まんまとひっかかったんだよ。僕が仕組んだ、いたずらにね」
「な、なにぃ〜!」

「ひぃ、ひぃ……。笑いが止まらないよ。僕は、君たちを見たときから、簡単にだませるんじゃないかって、思ってたんだ。でも、こんなにうまく行くとは、思ってなかったよ」
「仕組んでいたんだと?」

「ああ、そうだよ。でも、よかったなぁ。こんなに筋肉隆々の兄貴な人達が、目に涙をためて、震えているんだもの。やったかいがあったよ」
周りにいた男達も、声を出して笑っている。
(この野郎……)

自分は、馬鹿にされて笑われるのが、一番嫌いだからな。
心の底から、怒りがわき上がってきたよ。
「これでも……くらえーーーーっ!!」
自分は、堅く握りしめた拳を振り上げて、思いっきり風間をぶん殴ってやったよ。

「ぐっ……」
風間は、吹っ飛んで、転がっていった。
「人を馬鹿にするやつは、この哲夫が許さん!!」
そういってやったんだ。
本当にその時は、周りにいた男達全員を敵に回してもいいと思ったくらいだ。

「君たち……。こんなことをして、タダですむと思っているのかい?」
風間は起きあがって、そういったんだ。
その時は、なにを強がっているんだと思ったんだがな。
それは強がりでもなんでもなかったんだ。

「あとでどうなっても、知らないよ。僕のお父さんはね……」
風間の話を聞いて、自分は心底後悔した。
風間の親父さんは、とてもやばい人だったんだ。
その職業がね……。

今でも、いつ仕返しに来るのかと思うと、怖くて夜も眠れないよ。
とんでもないことをしてしまったものだ。
これが、自分の怖い話だ。
葉子ちゃん、終わったよ。
次は、誰にするんだい?


       (三話目に続く)