晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>G8

そうか、仲間らと同じだな。
自分の仲間も、そういったんだ。
あいつらは、自分らのことを狸としか思ってないから、なにをいっても無駄だってな。
それで、自分らは、逃げ続けることにしたんだ。

自分らは、とうとうさっきの川の所まで戻ってきた。
ここを渡れば、あと少しで森を抜けることができる。
そう思って、急いで川を渡ろうとしたんだ。
「止まれ!」
振り向くと、風間が立っていた!

「せっかく僕が、君たちと遊んであげようと思ったのに、帰ってしまうなんて、ひどいやつだな」
そういうんだ。
自分らは、いってやったよ。
自分らを狸呼ばわりしといて、なにがひどいやつだ!ってな。
すると、風間は、いうんだ。

「ああいう風にいえば、僕のことを追いかけて、森の奥まで来てくれると思ったからね」
「じゃあ、自分らを誘い込むために……」
「ご名答。人間狩りの獲物が帰っちゃったら、僕は、契約違反になってしまうよ」

「契約違反?」
「そう。君たちを追いかけている人達にね、約束しているんだよ。
人間を狩らせてあげるって。君たちがその獲物さ」
信じられるか、葉子ちゃん。
あいつらは、誘い込んだ人間を銃で撃ち殺していたんだ!

ひどいと思うだろ?
な、葉子ちゃん!
許されないことだよな。
だから、風間にもそういってやったんだ。
そんなことをして、許されると思っているのかって。
でも風間はけろっとしたまま、こんなことをいうんだよ。

「人間ってね、やっちゃいけないことをするのが好きなんだよ。だからこそ、高いお金を出してまで、この狩りに参加するのさ」
自分は、風間という人間が信じられなかったよ。
自分らが楽しいなら、他の人がどうなろうと関係ないって顔をしているんだ。

な、葉子ちゃんも、そう思うだろ?
自分らが、あきれているとな、急にこんなことをいい出したんだよ。
「まあ、いいや。君たちは、逃がしてあげるよ」
自分は、耳を疑ったよ。

「どういうことだ……」
自分は、聞いてみたんだ。
するとな、風間はとても恐ろしいことを教えてくれた。
自分らの首には、賞品がかけられているということだった。
自分らの首を風間にもってきた者に、賞品が渡されるらしい。

その賞品とは、この『人間狩り』の一年間無料招待券だ。
こんなゲームに参加している奴らなら、よだれが出るほどの賞品だったに違いない。
さらに恐ろしいのは、獲物の首をもって来るのは、誰でもよかったんだ。

たとえ、自分が殺していなくてもな。
つまり横取りさ。
獲物の首をもってきさえすれば、賞品はもらえる。
だから、誰かが自分らを殺した時点で、今度はハンター同士の殺し合いが始まるに違いない。

ここにいるハンターで生き残れるのは、ただの一人だけ……。
自分らは、戦慄を覚えたよ。
どうだい、葉子ちゃん。
信じられないだろう? 風間って。
人の命を、ゲームの対象にしかしていないんだよ。

風間はポケットから笛を取り出し、高らかと吹き鳴らしたんだ。
その笛は、誰かが獲物を倒したという合図だということだった。
つまり、ハンター同士のゲームの始まりだ。
風間は、自分の方に手を回すと、さあ帰ろうといって、走り出したんだ。

自分は、風間のことが怖くて、奴の言いなりにしかなれなかったよ。
……それからしばらくしてからだ。
森の中で、銃声が何度も何度も響くのを聞いた。
きっとあのとき、何人もの人が死んでいたんだろうな……。

そういえば、この前、風間から手紙が来ていたよ。
今度サバイバル・ゲームをやるそうだ。
集合場所は、あの森になっていた。
きっと、ただのゲームじゃないよ……きっとな。

……哲夫おじさんは、深刻な顔をしていたけど、私は見逃さなかったわ。
哲夫おじさんの、怪しく光る目を。
サバイバル・ゲームと聞いて、黙っていられる哲夫おじさんではないもの。

もしかして、参加するのかしら……。
「さあ、葉子ちゃん。自分の話は、終わったよ。次は誰かな?」
哲夫おじさんの声、いつもより弾んでいるみたい……。


       (三話目に続く)