晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>L6

そうなんだよ、葉子ちゃん。
その狸は、自分があげた刺身には、見向きもしなかったんだ。
狸は、鋭い視線を自分に投げかけてきた。
まるで、脅迫されているみたいだったよ。
自分は、刺身の代わりに、今度は、鳥の空揚げをあげてみたんだ。

それでも、狸は食べなかった。
そして、自分の膝の上に足をのせてきて、自分に鋭い視線を投げかけるんだ。
これ以上、気にくわないものをくれるのなら、おまえを食っちまうぞ!
そういっているみたいなんだ。

なにをあげれば、気に入ってくれるのだろうか。
これ以上、へたなものをあげられない。
自分が悩んでいると、仲間の一人が、おもしろ半分に酒を飲ませたんだ。
すると、驚いたことに、その狸はおいしそうにその酒を飲んだんだよ。

酒が好きな動物なんて、そんなにめずらしいものじゃない。
でも、実際に見るのははじめてだからな。
自分らは、調子に乗って、どんどん飲ませたんだ。
するとどうだ。
狸はいい気分になったのか、腹鼓を打ったんだよ。

ポンポコ、ポンポコってな。
とってもいい音だった。
自分らは、その時は疑問に思わなかったんだがな……。
葉子ちゃん。
狸って、本当に腹鼓を打つと思う?
自分には、本当にそんなことをするとは思えないんだよ。

しかも、あんないい音がするなんて……。
どうだい、葉子ちゃん。
怖いだろ?
やっぱりあの狸には、特別な力があったんだ。
今になって思うと、あの狸は、妖怪だったんじゃないのかな。

そう思えるときがあるよ。
さあ、これで自分の話は終わり。
どうだい、怖いだろ?
……哲夫おじさんの話は、忘れよう……。


       (三話目に続く)