晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>M5

へぇー、そうなんだ。
案外、葉子ちゃんは、猪突猛進型なんだな。
いや、何でこんなこと聞いたかというとな。
しばらく進んでいくと、川が横切っていたんだよ。
その川を突っ切っていけば、目的の崖まで、まっすぐに行くことができるんだ。

渡らないで川沿いに行っても、そこまで行くことができるんだけどな。
ちょっと、遠回りになってしまうんだ。

葉子ちゃんだったら、川を渡って行くんだろうが、自分らは、川を渡らずに行くことにした。
しばらく歩いてみて、ちょっと後悔したよ。
思っていたより、起伏が激しくてな。
おまけに、倒木が行く手を遮っていたりするんだ。

崖までまっすぐに歩こうとしても、邪魔になって通れないんだ。
なかなか歩きづらい所だったよ。
しばらく、悪戦苦闘しながら、進んでいった。
すると突然、仲間の一人が、大きな声を上げたんだ。

自分らは驚いて、そいつの方へ駆けつけてみた。
「おい、見ろよ……」
そいつは、地面の一角を指さしていたんだ。

その指先を追っていくとな、そこには、狸の死骸があったんだよ!
わかる? 葉子ちゃん。
狸だよ、狸……。
旅館の主人の風間がいっていた、あの狸だ!

「おい、狸だぞ……」
自分の横に立っていた奴が、そういったんだ。
自分は、黙ったまま頷いた。
緊張して、何もいえなかったんだ。
その死骸はな、外傷はなかったけど、ひどくやせ衰えててな。
半分干物のようになって横たわっていたんだよ!

あの主人がいっていた狸と、何か関係があるのか!?
そう思うと、緊張で手に汗がにじみ出てくるんだ!
わかるだろ? 葉子ちゃん!!
このままここで、黙って眺めていてもしょうがない。
自分らは、先に進んでいくことにした。

まさか、墓掘って、供養してやるわけにもいかないからな。
それから、しばらく進んでからだ。
なんと!!
急に、仲間のうちの一人が、ふらふらと、自分らと違う方向に歩き出したんだ!

「おい!」
そいつのことを呼んでみたんだがな。
黙って、そのまま行ってしまったんだ。
残った俺達は、焦ったさ。
どう考えても、あの狸にとりつかれたに違いない。
いや、そうとしか考えられないんだ。

見失わないうちに、追いかけていった方がいいかもしれない。
それは、わかっている!
でもな、みんな嫌な予感がして、足が動かないんだよ!
ああ、あいつはどんどんと奥へ入っていく。

早くしないと、見失ってしまう!!
どうする!
葉子ちゃん!!
葉子ちゃんなら、追いかけていくか!?
1.追いかける
2.その場で様子を見る