晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>S10

そう。
仲間の一人が、そう叫んだんだ。
自分らは、一斉に逃げ出した!
荷物なんか放り出してな。
そして、外に飛び出した瞬間。
辺り一面が、まばゆい光に包まれたんだ!

「くっ、何の光だ!」
何とか目を開いて見てみると、そこには、激しい光を放っている物体があった。
そう、それはね、UFOだったんだよ!
信じられるかい?
葉子ちゃん。

自分が嘘をいっていると思っているだろ?
嘘じゃない、嘘じゃないんだ、葉子ちゃん!
自分らは、そのまま呆気にとられて、立ちつくしていた。
あまりの出来事に頭の中が真っ白になってな。

すべての思考が止まったような気がした。
しばらく、そのまま眺めていたと思ったんだが、本当は、ほんの数秒後だったんだろう。
後ろから、聞き慣れない言葉のようなものが聞こえたんだ。
あわてて後ろを振り向くとな。

そこには、身の丈、三メートルはあるかのような、奇怪な怪物が立っていたんだ。
その怪物は、銀色に光った宇宙服みたいなものを着ていてな。
頭は、なにかアンモナイトを思わせるような形をしていたよ。
一目で、そいつが地球上の生き物じゃないことがわかったよ。

きっと、そのUFOに乗ってきた宇宙人に違いない。
怖いな、怖いだろ?
葉子ちゃん。
そんな化け物が、自分らの前に立っているんだ。
思い出しただけでも、身震いがしてくるよ。

その宇宙人はな、自分たちに向かって、銃のようなものを突きつけてきた!
そして、なにかを叫んでいるんだ!
正真正銘、絶体絶命の大ピンチだ!
強烈な臭気があたりを漂った。

あの頭が痛くなるような強烈なにおいは、この宇宙人から発せられているようだった。
自分らは、どうしていいのかわからずな。
撃たれたくないから、とりあえず両手を上に上げたんだ。
まさか、飛びかかるわけにもいかないからな。

その瞬間!
体にものすごい衝撃が走った!!
その宇宙人に、銃のようなもので撃たれたんだ!
声を出す暇もなかったよ。
自分は、あっという間に意識を失ったんだ。
………………………………。

自分らは、気がつくと、草むらに倒れていたよ。
はじめはそこがどこなのか、全くわからなかった。
奇妙なことにな、自分らは、丸一日分の記憶が、すっぽりと抜け落ちてしまっていたんだ。
自分はどうしてこんな所にいるのか、思い出してみようとした。

でもな、思いだそうとすると強烈に頭が痛くなるんだよ。
それでどうしても思い出すことができないんだ。
一緒にいた仲間らにも聞いてみたんだがな。
そいつらも全く覚えていないんだよ。
さっきまでのことをな。

しかし、おかしなことに、自分以外の連中は、別に頭が痛くなるような様子はなかった。
なんで自分だけ、こうなんだろうかと思ったんだ。
でも、今はわかるよ。
日がたつにつれ、記憶の断片がつながり始めたんだ。

おかげですべてを思い出すことができた。
きっとな、自分らは、あの後記憶を消す手術をされたんだ。
それで、なにも覚えていないんだ。
ただ、自分は手術が失敗していて、思い出すことができたんだと思うよ。

でもな、最近は、自分にわざと記憶を残していたんじゃないのかって、気もしてきたんだ。
今でも、たまに記憶をなくす瞬間があるからな。
きっと、自分は、実験台に選ばれたんだ。
それで、たまに自分を捕まえて……何かをしているに違いない。

今も聞こえているよ。
頭の中で、なにか機械が動いているような音がな。
もしかしたら、今自分がここでこうしていることも、見張られているのかもしれない。
そう思うと、怖くてしょうがないよ。
葉子ちゃんも、気をつけた方がいいぞ。

葉子ちゃんだって、いくらでもさらわれる可能性はあるんだ。
もしかすると、もうさらわれているのかもしれないがな。
……哲夫おじさんったら、いつもより真剣。
それに、私のことを真剣に見てるし……。

……あら? またいつもの耳鳴りが始まったわ。
最近多いのよね、この耳鳴り……。
まさかとは思うけど、この耳鳴り、哲夫おじさんの話とは関係ないよね……。
ううん、考えたって仕方がないわ。
次の人にいきましょう。
次は……。


       (三話目に続く)