晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>T10

「こいつの死体を隠すんだ!」
誰かが、そう叫んだ。
自分らは、急いで風間の死体を隠そうとしたんだ。
みんなで風間を引きずって、必死に隠そうとしたんだよ。
でも風間の体は、予想以上に重かった。

自分ら四人がいくら引っ張っても動かないんだ。
駄目だ、間に合わない……。
そう思った瞬間!
廊下の角から、身の丈、三メートルはあろうかという怪物が現れたんだよ。

そいつは、銀色に光った宇宙服みたいなものを着ていて、頭は、アンモナイトを思わせるような形をしていたんだ。
信じられるかい? 葉子ちゃん!

明らかにそいつは、人間ではない。
自分らは、急いで逃げようとしたんだがな。
体がいうことを聞かないんだよ。
自分らは、逃げることができなかったんだ。

その宇宙人はな、自分たちに向かって、銃のようなものを突きつけてきた!
そして、なにかを叫んでいるんだ!
正真正銘、絶体絶命の大ピンチだ!
強烈な臭気があたりを漂った。

あの頭が痛くなるような強烈なにおいは、この宇宙人から発せられているようだった。
自分らは、どうしていいのかわからずな。
撃たれたくないから、とりあえず両手を上に上げたんだ。
まさか、飛びかかるわけにもいかないからな。

その瞬間!
体にものすごい衝撃が走った!!
その宇宙人に、銃のようなもので撃たれたんだ!
声を出す暇もなかったよ。
自分は、あっという間に意識を失ったんだ。
………………………………。

自分らは、気がつくと、草むらに倒れていたよ。
はじめはそこがどこなのか、全くわからなかった。
奇妙なことにな、自分らは、丸一日分の記憶が、すっぽりと抜け落ちてしまっていたんだ。
自分はどうしてこんな所にいるのか、思い出してみようとした。

でもな、思いだそうとすると強烈に頭が痛くなるんだよ。
それでどうしても思い出すことができないんだ。
一緒にいた仲間らにも聞いてみたんだがな。
そいつらも全く覚えていないんだよ。
さっきまでのことをな。

しかし、おかしなことに、自分以外の連中は、別に頭が痛くなるような様子はなかった。
なんで自分だけ、こうなんだろうかと思ったんだ。
でも、今はわかるよ。
日がたつにつれ、記憶の断片がつながり始めたんだ。

おかげですべてを思い出すことができた。
きっとな、自分らは、あの後記憶を消す手術をされたんだ。
それで、なにも覚えていないんだ。
ただ、自分は手術が失敗していて、思い出すことができたんだと思うよ。

でもな、最近は、自分にわざと記憶を残していたんじゃないのかって、気もしてきたんだ。
今でも、たまに記憶をなくす瞬間があるからな。
きっと、自分は、実験台に選ばれたんだ。
それで、たまに自分を捕まえて……何かをしているに違いない。

今も聞こえているよ。
頭の中で、なにか機械が動いているような音がな。
もしかしたら、今自分がここでこうしていることも、見張られているのかもしれない。
そう思うと、怖くてしょうがないよ。
葉子ちゃんも、気をつけた方がいいぞ。

葉子ちゃんだって、いくらでもさらわれる可能性はあるんだ。
もしかすると、もうさらわれているのかもしれないがな。
……哲夫おじさんったら、いつもより真剣。
それに、私のことを真剣に見てるし……。

……あら? またいつもの耳鳴りが始まったわ。
最近多いのよね、この耳鳴り……。
まさかとは思うけど、この耳鳴り、哲夫おじさんの話とは関係ないよね……。
ううん、考えたって仕方がないわ。
次の人にいきましょう。
次は……。


       (三話目に続く)