晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>U9

さすがは、葉子ちゃん!
葉子ちゃんは優しいネェ。
それでこそ、女の子だ。
やっぱり、女の子は、そうでなくちゃならんよな。
そんな葉子ちゃんに話すのは、ちょっと恥ずかしいんだがな。
実は、自分らはな、風間をそのままにして、逃げてしまおうと思ったんだ。

情けないおじさんだよな。
でも、それはできなかったよ。
さすがの自分にもな、良心ってものが、あったらしい。
逃げようと思っても、心の中で、もう一人の『哲夫』が叫ぶんだ。

『おまえは、そんなことをする男じゃない。おまえが自分の知っている哲夫なら、こいつを見捨てたりすることはないはずだ』
ってな。
そう考えていると、自分の仲間らが、風間に駆け寄っていったんだ。
そして、風間の様態を確かめている。

自分も、すぐに駆け寄ろうとしたんだ。
「おい、こいつ人間じゃないぞ!」
一人がそう叫んだときだった。
「ぎゃっ!」
「うわぁーーーーっ!」
そのとき、風間が爆発したんだ!!
仲間は、爆風で吹っ飛ばされてしまったんだ。

自分は、すぐ近くにいなかったから、助かったんだ。
気がつくと、病院のベッドで眠っていたよ。
警察の取り調べもあったんだがな。
本当のことを話しても、一向に信じてもらえなかったよ。
まあ、人間が爆発したなんて話しても、信じてくれるわけがないよな。

おかげで、頭がおかしいんじゃないのかって思われて、大変だったんだ。
まったく、失礼だよな、葉子ちゃん。
ただ、不思議だったのは、爆発した風間の破片が一切見つからなかったことだ。

おかげで、爆発物を所持していたんじゃないのかって、疑いをもたれることはなかったがな。
実はな、しばらくしてから、その旅館に行ってみようとしたんだ。
仲間の供養もあるしな。
でも、もうあの旅館は、なくなっていたよ。

自分らの事件の後、つぶれたらしい。
それで、あの風間のことも調べることはできなかったんだ。
結局なんだったんだろうな。
風間って。

じゃあ、これで自分の話を終わるよ。
葉子ちゃん、次に話をするのは、誰なのかな?


       (三話目に続く)