晦−つきこもり
>二話目(鈴木由香里)
>E9

葉子は、彼女の祖先に何かあると睨んだんだね。
なかなか鋭いじゃん。
だって、そうとしか考えらんないよね。
それまでの屋敷内は、多少の奇妙なことは起こってても、いたって平穏無事だったんだからさ。

この魔女の一族が呪われてたとしか、考えらんないじゃん。
私には見えたんだ。
母子の背後に浮かぶ、たくさんの亡者たちの怨念が。
ざんばら髪の落武者から、貧しい身なりの兄妹、髪を振り乱したお姫様のような女性までが、恨みのこもった形相で、母子の後ろに浮かんでるんだよ。

そういえば、以前、その魔女が、
「私は、さる城主の血を引いてるのよ。世が世なら、あんたなんかが話すこともできないような、お姫様だったんだからね」
って、自慢げに喋ってたっけ。
ずいぶん下品で、お年を召したお姫様だこと……って、ちっとも、信じてなかったんだけどさぁ。

案外、本当だったのかもね。
あんなに恨みをかってるなんて、さぞや、お強いご先祖様だったんだろうよ。
本来なら、母子そろって、先祖の非礼を詫びて、霊たちの供養をするべきだと思うんだけどさぁ。
あれじゃ無理だね。

全然、気付いてないもん。
ま、いいや。
あんな家、滅びたって、私には、全然、関係ないことじゃん。
さ、これで話は終わりだよ。
次へ行こうか。


       (三話目に続く)