晦−つきこもり
>二話目(鈴木由香里)
>F9

前世の因縁だっていうんだね?
て、ことは、葉子って前世を信じてるんだ。
馬鹿にしてるんじゃないよ。
私も信じてるからさ。
葉子のいうとおり。
この母子が、こんなに呪われてるのは、前世からの因縁なんだよ。

この魔女の前世は、中世のヨーロッパで大量虐殺を行った悪女だったのさ。
かなり身分の高い家柄の娘として、何不自由なく育てられた結果。
気位ばっかり高くって、優しさのかけらもない女に成長しちゃったのさ。

当時としては、政略結婚なんて珍しくもなかったけど、愛のない結婚生活は退屈だったんじゃん?
彼女は、錬金術だの、降霊会だのに興味を持つようになり、彼女のサロンには、うさんくさい連中が出入りするようになったんだ。

その結果、宗教的な問題まで引き起こしちゃって、罪もない人々を、次々と残虐な手段で殺したんだって。
そんな彼女も、財産狙いの異端審問官等の手によって、火刑にかけられたんだ。

因果応報。
さんざん悪いことやってたんだもん、当然の死に様だよね。
炎に巻かれ、恨みごとの数々を吐き散らしながら、絶命したのさ。

これが、魔女の前世。
よっちゃんの方はね、前世では、取り立てて身分のある人間じゃなかったんだけどさぁ、物凄い嘘つきだったんだ。
少年の頃から残忍な性格で、無法地帯と化した裏町を根城に、だまし、殺し、盗み、大人たちを相手に、いろいろやってたみたいだよ。

まぁ、一番重い罪だったのが、『かたり』なんじゃん。
彼はねぇ、
「自分こそが、神の生まれ変わり!」
って、人々を騙して、信者からお金を巻き上げてたのさ。
騙される方も悪いんだけどね。

こいつの死に方も、ろくなもんじゃなかったよ。
悪銭、身につかず。
賭けに負けて、一夜のうちに全財産を失った挙げ句、ひったくりの少年に刺されて、あっけなく死亡。
彼の死体は、薄汚い街角のゴミの中に転がっててさ。

カラスや野良犬の、かっこうのエサになったんじゃん?
まぁ、母子そろって、さんざん前世で悪どいことばっかりやってたってこと。
母子の背後で、うごめいてる黒い影っていうのは、二人の前世に、恨みを持つ人たちの怨念なのさ。

この二人にとっての今回の人生は、前世での罪を償うための人生なんだけどさぁ。
二人そろって、こんな調子じゃん。
知らないとはいえ、どんどん自分の魂を落としてるよねぇ。
もう、取り返しがつかないとこまで来てるんじゃん?

ま、いいや。
あんな家の一つや二つ、滅びてしまえばいいのさ。
私には、全然、関係ないことだもんね。
さ、これで話は終わりだよ。
次へ行こうか。


       (三話目に続く)