晦−つきこもり
>二話目(鈴木由香里)
>P8

そう。
かっちゃんは、インコの屍骸を両手で包むように持つと、こっそり裏山へ入って行ったんだ。
もちろん、私も後をつけたよ。
木々の間をぬって、獣道が続いてた。
かっちゃんは、その道を迷うことなく歩いてく。

そして、小さな原っぱにたどり着いたんだ。
原っぱには、小さな木片がズラーッと並んでる。
最初は、それが何なのかわからなかったんだけど……。
私が、木陰に身を潜めて観察するうちに、その正体が判明したんだ。

かっちゃんは、空いている場所に穴を掘ると、インコの屍骸をそっと埋めたの。
丁寧に、丁寧に、土をかけると……。
最後に、小さな木片を差したんだ。
お墓だったんだよ。

その原っぱは、かっちゃんの作った墓地だったのさ。
映画のワンシーンを、見てるような気分だったよ。
かっちゃんて、一見しただけなら、本当に無邪気な、可愛い子だったからさ。
魅せられるっていうのかなぁ。

堕天使って、きっと、こんな雰囲気を持ってるんだと思ってた。
そういえば、かっちゃんって、お母さんにばっかりなついてて、お父さんには近寄りもしなかったし……。
……なんて、空想にふけってたんだ。

やっぱり、こういう堕天使のような子供ってシチュエーションには、多少オィディプス・コンプレックスが入ってる方が、雰囲気あるじゃん。
間違ってもマザコンなんて、単語使わないでよ。
どっちも同じような意味だけどさぁ、イメージの問題だよね。

それからの私は、かっちゃんの一挙手一投足を観察しては、甘美な空想に酔いしれてたんだ。
そういう年頃だったのよ!
バイトの契約が切れる時、私は、泣く泣くかっちゃんとサヨナラしたんだ。
また来年、来ることを約束して……。

ところがね。
この後、しばらく屋敷には行けなかったんだ。
双方の予定が、噛み合わなくってさぁ。
けっきょく私が、再びかっちゃんに会えたのは、それから、五年も過ぎた後だった。

五年の歳月を経て、さぞや可愛らしい少年に、成長したであろうと思っていると……。
「きゃーーーーーっ!!」
屋敷で私を出迎えたのは、日に焼けた坊主頭の、どこにでもいそうな田舎の子供と、こちらも、でっぷりと肥えた、田舎のオバサンだったのよ。

高校一年生の時に抱いた、あの堕天使のイメージが、音をたてて崩れる瞬間だった。
私は、その場でUターンしたよ。
もう、その屋敷に用はなかったからね。
まったく、悪夢のようだった。

あの可憐な子が、どうしたら、ああも普通に育ってしまうのかっていうくらい、腹立たしいものはなかったよ。
呪われてるとしか、いいようがないね。
これがきっかけになって、私は、他人に対して、余計な理想を持たなくなったんだ。

現実なんてこんなもんよ。
さぁーて、私の話はこれで終わり。
次へ行こうか?


       (三話目に続く)