晦−つきこもり
>二話目(鈴木由香里)
>X2

聞きたくない?
うーん、そこまではっきり断られると、かえって話したくなるんだよなぁ。
せっかくの機会だし、話しちゃおうかな。
ただし、何が起こっても、私は責任持てないからね。

以前、大きな家のベビーシッターに行ったことがあるんだけど、これは、その時の悪夢のような体験談なんだ。

……その家は、山間の里の外れに、ぽつんと建ってた。
付近の人々から、『お屋敷』って呼ばれてるくらい大きくて、古めかしい造りの家だったよ。
家の裏手は山になってて、うっそうとした森が広がってたなぁ。

ちょうど夕暮れ時になるとさぁ、空も、山も、屋敷も真っ赤に染まって、化け物屋敷のようになるんだ。
それを見る度に、ひどい胸騒ぎがしてたのを、今でも覚えてる。
その頃から、漠然とした恐怖を感じてたんだね。
本当に、そこは化け物の棲み家だったんだよ。

私は、その化け物屋敷で約一ヶ月間、有象無象の化け物に囲まれて暮らしたのさ。
思えば、この時からだよ。
私が、変なものを見るようになったのは……。
広い家だったけど、そんなに住人が多いわけじゃなかった。
婆さんと、その息子夫婦とその子供。

あとは、親戚やら知人やらが、いたりいなかったりって感じ。
そうそう、婆さんの飼ってる犬もいたよ。
鳥もいたような気がするし、猫は……野良だったかな?
まぁ、そんな状態だからさぁ。
掃除もされないで、ほったらかしになってる部屋がいくつもあったんだ。

そういう部屋って、化け物が棲みつきやすいんだよ。
こう、襖を少しだけ開けて覗くじゃん。
するとさぁ、暗い部屋の中にスーッと光の線がのびるよね。
その細い光を、ふっと何かが横切るんだ。

ほんの一瞬のことだから、ちゃんとした姿は見えない。
だけど、それは一匹だけの時もあれば、群をなして逃げて行く時もあったよ。
ネズミとか、ゴキブリかもしれないんだけどさ。
でも考えてごらんよ。

私、そっちの方が嫌だな。
それにさ、今、私が話したようなのって、古い家屋とかに憑く妖怪の類で、あんまり危害はないんだよ。
そうだね、これから話すものに比べたら、可愛らしいペットのように思えてくるんじゃないかなぁ。

……その家で私に与えられた仕事は、三才になる子供の世話だったんだ。
簡単な仕事に思えるでしょ?
1.はい
2.いいえ