晦−つきこもり
>二話目(藤村正美)
>B5

あら、そうですの。
仕方ありませんわね。
とっておきの後日談を、してあげましょうか。
パンプスの中から見つかった、不思議な石ですけれど……。
実は私、ここに持っているんですの。

そういって、正美おばさんは手を出した。
手のひらの上に、変な形の石がころりと載っている。
もっと大きかった物が、無理矢理もぎ取られたみたいな形にも見える。
そのとき、私はおかしなことに気づいた。

「正美おばさん。この石は、河合さんが持っていったのよね。どうして、おばさんが持ってるの?」
おばさんは、フッと微笑んだ。
そうですわ。
この石は、河合さんが持っていきました。

でも、それからしばらくして、彼女は亡くなったんですの。
ある朝、ベッドの中で冷たくなっていたそうですわ。
うちの病院に運ばれてきたんですけれど、原因はわからなかったんですの。
病気も外傷も、発見できないんですもの。

現代医学も、完璧ではありませんわね。
河合さんのお葬式が済んだあと、石は真壁さんが譲り受けたそうです。
ところが、それから一ヶ月ほど経って、今度は真壁さんが亡くなったんですわ。

河合さんと同じように、ベッドの中で。
原因不明なところまで同じだったんですって。
彼もやっぱり、うちの病院に運ばれてきたんですの。
手術室に運ばれる途中、彼の手から、この石が落ちたんですわ。

それを私が見つけて、拾ったんですの。
この石の正体が何なのか、私にはわかりません。
河合さんと真壁さんの死が、この石のせいなのかも知りません。
ただ、なんとなく手放せなくて……。

いつか、私がこの石のせいで死んでも、別に構わないとまで思うのです。
……さあ、これで本当に、この話の終わりですわ。
正美おばさんは、にっこりと微笑んだ。
手に載せた石に、そっと頬を寄せる。

とろりとした目の色を見れば、どんなに石を大事に思っているかわかる。
ううん、石というより、まるで恋人のように……。
そのとき、石がキラッと光った。
私は目を疑った。

だって、あれは光るような材質じゃないもの。
どこにでもありそうな、普通の灰色の石だわ。
だけど……光ったのは間違いない。
私には、正美おばさんに応えたように思えた。

おばさんの想いに、石が反応しているんだろうか。
それとも。
……石の方が、おばさんを愛しているのだとしたら?
正美おばさんは、若くてきれいな女の人だもの。
まさか、おばさんの側にいたくて、石が次々と持ち主を殺したなんてことは!?

ばかばかしい考えなのは、わかってる。
だけど、うっとりとした正美おばさんの表情。
あれは、何かにとりつかれたような……?
そのとき、おばさんの声がした。

「葉子ちゃん、
何をしているんですの?」
おばさんは、にっこりと微笑んでいる。
いつもの見慣れた顔なのに、なぜか危険なものを感じる。
私は、胸の中の疑いを口に出せなくなってしまった。

「な……なんでもないの……」
私はくちびるを噛んだ。
次の話をしなくちゃ。
そうよ、今日は怪談をするんだもの。
…………逃げるんじゃないわ……。


       (三話目に続く)