晦−つきこもり
>二話目(前田良夫)
>C9

そうだよな、それが正しいぜ。
このまま頑張ったって、カンヌキはかからない。
俺はあきらめた。
それで、物陰に急いで潜り込んだんだ。
ギリギリのところで扉が開いた。

縮こまってたから、誰かは見えなかったよ。
でも、絶対に生き物じゃないってことは、わかったぜ。
怖くて、気が遠くなりそうだった。
そのときだ。
俺のすぐ近くで、悲鳴が聞こえた。

抑えきれずに、思わず出たって感じの声だった。
一緒に逃げてきた友達だ。
恐怖に耐えきれなくなったんだ。
少し間があって、コツコツと靴音がした。
近づいてくる。

こっちへ来る!
俺は両手で口を押さえた。
そうしてないと、悲鳴がもれそうだったから。
靴音が、俺の前で止まった。
今、俺とそいつの間には、壊れかけた木箱がいくつかあるだけだ。

どうしよう。
どうしよう。
骨と皮だけの手が、いきなり木箱を突き破って目の前に現れた。
友達が、また悲鳴をあげた。
手は、悲鳴が終わる前に、奴の頭をつかんだ。
そのまま持ち上げる。

奴が何か叫んでいる。
でも、何をいっているのかわからない。
それにしても、なんて力だ。
友達の足は、床から浮いている。
そして、鈍い音が響いた。
友達の体が、崩れた木箱の山の上に落ちた。

……そうなんだ。
その友達には、体しかなかった。
首から上が、引きちぎられていたんだよ。
手の主は、やっぱり首なし女だった。
女は、血まみれの手に、友達の頭を持っていた。

その頭を、自分の首に載せたんだよ。
閉じていた目が開いて、ニヤッと笑った。
俺は必死で叫びをこらえていた。
いや……もうその頃には、叫ぶ気力もなくなっていたんだ。

呆然と見る俺の前で、友達の頭を載せたワンピースの女は、小屋から出ていった。
俺は助かったのか……?
全身から力が抜けたよ。
すぐ側に、友達の死体がある。
それはわかってるのに、体が動かないんだ。

怖いとも思わなかったぜ。
きっとマヒしちゃったんだな。
次の日、俺たちは発見された。
熊か何か、大型動物に襲われたんだろうっていわれたよ。
近くの森で、同じように引き裂かれたクラスメイトたちが見つかったんだ。

肝試しに出かけてった奴らだよ。
みんな首をもがれてたのは、熊が脳味噌を食べるからだっていわれた。
違うとはいわなかったよ。
いって、何になるっていうんだ。

怪しまれるか、どこかに監禁されるのがオチさ。
今年から、林間学校の場所も変わるらしいしな。
もう、俺には関係のないことなんだ。
俺は知らないよ。

……これで、俺の話は終わりだ。
次の話を聞こうぜ。


       (三話目に続く)