晦−つきこもり
>二話目(前田良夫)
>D10

本当かよ。
葉子ネエに、そんなことできるわけ?
まあ、俺にはできるけどさ。
そのときは、そんな余裕がなかっただけだよ。
だって、俺が転んだショックで、ボートの中の、古いクーラーボックスのフタが壊れたんだ。

そして、中から何かが転げ出た。
転がって、俺の腕に当たったそれは……。
女の生首だった。
長い髪はグシャグシャにもつれて、海草みたいに見える。
青白いまぶたが開いて、俺をギョロリと睨んだ。

「ぎゃああーーーーっ!!」
俺はパニックを起こして、生首をひっつかんだ。
そして、ドアのところにいる首なし女に投げつけたんだ。
何で、あんなことができたのか、未だにわからないぜ。
まだ、手に感じが残ってるよ。

重い音がして、首は転がった。
それと同時に、ゆっくりと、首なし女が動き出した。
俺たちは息を詰めて、それを見ていた。
もう、何をしても無駄だとわかったんだ。
肝試しにいった三人は、きっとこいつに殺されたに決まってる。

そして、今度は俺たちの番なんだ。
女はゆっくりと、こっちに歩いてきた。
そして……かがんで、首を拾い上げたんだ。
俺たちが見ていると、女は背中を向けた。

そして、静かに小屋から出ていったんだ。
…………助かった?
俺たちは助かったのか?

俺は、小屋の外に出てみることにした。
…………誰もいない。
よかった、本当に助かったんだ。
大きく息をついて、俺は小屋の中に戻った。
……床に、黒っぽい液体が流れていた。

一緒に隠れてたはずの友達が倒れていて……。
みんな首から先がない。
この液体は……血だ。
俺が小屋から出た数秒の間に、みんなの首を切り取っていったっていうのか?
まさか、俺もあのまま小屋の中にいたら、同じように首を切られて……。

俺は駆け出した。
心臓が破れたって、足が折れたって構わない。
一刻も早く、みんなのいる宿舎に帰るんだ。
たどり着いた頃には、もう空が明るくなってたぜ。
俺は自分の部屋に飛び込んで、布団をかぶって震えてたんだ。

朝になって、奴らがいないことに先生が気づいた。
そして捜しに行って……みんなの体を見つけたんだ。
うん、体だけを、さ……。
殺人鬼かって、大騒ぎになったな。
でも、いえやしないだろう?

友達を殺したのは、首のない、赤いワンピースの女です……なんてさ。
だから黙ってた。
俺があいつらと一緒だったのも、ばれなかったよ。
あの女の正体は何だったのか、友達の首を切ったのは誰なのか……。

そんなことは、どうでもいいんだ。
俺、死ぬのやだもん。
秘密を探ろうなんて、思ってもいないぜ。
俺の願いはただ一つ、もう一生、あの女に会わないこと。

それだけさ。
さあ、それじゃあ話を終わるよ。
三話目は、誰が話す?


       (三話目に続く)