晦−つきこもり
>二話目(前田良夫)
>F10

本当かよ。
葉子ネエに、そんなことできるわけ?
まあ、俺にはできるけどさ。
そのときは、そんな余裕がなかっただけだよ。
だって、俺が転んだショックで、ボートの中の、古いクーラーボックスのフタが壊れたんだ。

そして、中から何かが転げ出た。
転がって、俺の腕に当たったそれは……。
女の生首だった。
長い髪はグシャグシャにもつれて、海草みたいに見える。
青白いまぶたが開いて、俺をギョロリと睨んだ。

「ぎゃああーーーーっ!!」
俺はパニックを起こして、生首をひっつかんだ。
そして、ドアのところにいる首なし女に投げつけたんだ。
何で、あんなことができたのか、未だにわからないぜ。
まだ、手に感じが残ってるよ。

重い音がして、首は転がった。
それと同時に、ゆっくりと、首なし女が動き出した。
俺たちは息を詰めて、それを見ていた。
もう、何をしても無駄だとわかったんだ。
肝試しにいった三人は、きっとこいつに殺されたに決まってる。

そして、今度は俺たちの番なんだ。
女はゆっくりと、こっちに歩いてきた。
そして……かがんで、首を拾い上げたんだ。
俺たちが見ていると、女は背中を向けた。

そして、静かに小屋から出ていったんだ。
…………助かった?
俺たちは助かったのか?

俺は、そのまま気を失っちまったんだ。
次の日、俺たちは捜しに来た先生に見つかった。
ものすごく怒られたけど、全然気にならなかったな。
生きていられるだけで満足だもんな。

あ、そうそう。
いなくなった三人も、同じ小屋の中で見つかったよ。
奴らも首なし女に追いかけられて、小屋に逃げ込んだんだ。
それで隠れているうちに、眠っちまったんだって。
人騒がせだよな。

その後で、聞いた話なんだけどさ。
昔、ボートに乗ってた女の人が、湖に落ちたんだって。
アンラッキーなことに、そこへモーターボートが突っ込んできたんだ。
女の人はスクリューに巻き込まれて、首がもげて死んだんだってさ。

着ていた白いワンピースが、真っ赤に染まったって。
俺たちが見たのは、その女の人の霊じゃないのかな。
でも、俺たちはたまたま助かったけど、幽霊がいなくなったわけじゃないんだよな。
今でもきっと、さまよってると思うぜ。

捕まったら……俺たちみたいに、助かる保証はないよな。
俺の話は、これで終わりだぜ。
次の人、これより怖い話できるか?


       (三話目に続く)