晦−つきこもり
>二話目(前田良夫)
>H7

嘘だあ。
俺は森に行ったんだぜ。
だから、湖の地形なんてわからない。
どっちに行ったらいいか、見当がつかないんだよ。

どうしよう?
どっちに行けばいいんだ!
悩んだあげく、俺は右に曲がった。

湖に沿って、遠くまで道が延びている。
向こうの方は、闇の中に溶けて見えないくらいだ。

左側は湖、右側は林。
どっちに行っても、隠れる場所なんてない。
走り続けた足は、もうクタクタだ!
追いつかれる!
不意に、足に何かが引っかかって、俺は倒れちゃったんだ。

振り返ろうとした頭上から、笑い声が聞こえた。
何だ!?
見上げると、覆いかぶさるように生い茂る大木が目に入った。
そして、その枝の間から。
木の葉を激しく散らして、ビーチボール大の何かが、いくつも落ちてきた。

甲高い笑い声をあげている。
頭だ!
それは、けたけたと笑い続ける大きな人の頭だったんだ。
年取ったのや、若いのや……いろいろ、十数個もぶら下がってた。
みんな俺を見て笑ってる。

なのに、目だけは笑っていないんだ。
……それを見ながら、俺はいつの間にか気を失った。
目が覚めたとき、先生が俺を覗き込んで、揺さぶっていた。
俺と、一緒にいた友達は、みんな倒れていたらしい。

宿舎を抜け出したことで、怒られると思ったけど、全然お構いなしだったな。
きっと、それどころじゃなかったんだ。
だって……先に出かけた三人は、そのまま行方不明だったんだから。

森の中や、湖にも捜索隊が出たよ。
だけど、奴らの靴一つ、見つけることができなかったんだ。
誘拐されたんじゃないか、ともいわれたらしいよ。
でも、そんなこと信じない。
あいつらは、きっと首なし女や、首のなる木に捕まっちまったんだ。

あれが何なのかは知らないけど、悪いものに決まってる。
妖怪とか、そういうものなのかもしれないな。
ああ、そうだ。
うちの学校、今年から林間学校がなくなるらしいぜ。
PTAが何かいったのか、あそこはやばいぞってことになったのか……。

とにかく、もうあの湖には行かないんだって。
俺も、その方がいいと思うな。
これで、話は終わりだよ。
三話目は誰?


       (三話目に続く)