晦−つきこもり
>二話目(前田良夫)
>R4

そう、俺もそうしたんだ。
小指のことだけ考えて、息を止めてゆっくり動かした。
そしたら……ピクッて動いたんだ。
それといっしょに、体が楽になった。
よし、これで動ける!

「うわあーーーーっ!」
叫びながら、侍の幽霊に体当たりした。
ところが、ぶつかると思った瞬間、幽霊が消えたんだ。
俺はバランスを崩して、ひっくり返った。
ほんの一瞬前までいた幽霊と、一緒に肝試しをしていたはずの女子が、いなくなってるんだ。

もう限界だった。
俺たちは悲鳴をあげながら、一斉に逃げ出したよ。
次の日、先生が捕まった女子を見つけた。
塚の側で死んでいたんだって。
目をカッと見開いていたんだけど、その中には瞳がなかったそうだぜ。

白目をむいてたんじゃない。
眼球から、瞳の部分がなくなっていたんだって。
どうしてこんなことになったのか、わからない。
あの侍が、何であの女子を捕まえたのかも……。
何もわからないままなんだ。

たぶん、今年の林間学校は、どこか別な場所へ行くんだろうなあ。
俺の話は、これで終わりだぜ。
次は、誰に話してもらう?


       (三話目に続く)