晦−つきこもり
>二話目(前田良夫)
>S4

うん、俺もそれを思い出したよ。
お経なんて少ししか知らないけど、同じこと何度も繰り返してさ。
でもそれで、体がフッと楽になったんだ。
今だ!

俺は逃げ出した。
それがきっかけで、仲間もみんな走り出したんだ。
後ろなんて振り向けなかった。
一度走り出したら、どんどん怖くなって、立ち止まることもできなかったんだ。

そうなんだ。
俺たちは、その女子を見捨てたんだよ。
悪いか?
俺たちが、あんなのに対抗できるわけないじゃん。
できることがあるなら、やってたよ。
ないんだから、しょうがないじゃん。

……次の日、先生が彼女を見つけたよ。
塚の側で死んでいたんだって。
目をカッと見開いていたんだけど、その中には瞳がなかったそうだぜ。
白目をむいてたんじゃない。
眼球から、瞳の部分がなくなっていたんだって。

どうしてこんなことになったのか、わからない。
あの侍が、何であの女子を捕まえたのかも……。
何もわからないままなんだ。
ただ、今度の林間学校は、どこか別な場所へ行くんだろうと思ってたんだ。

だけど、春休み前に発表になったんだよな。
今年も同じ湖畔の宿舎へ行くってさ。
うちの学校って、五年と六年が林間学校に行くんだよな。
俺たち、もう一度あそこに行かなきゃならないんだよ。

それが怖いんだ。
今年は、あの侍だけじゃなくて、きっと彼女も待っているからさ。
自分を見捨てた、俺たちを恨んでいるはずだよ……。
俺の話は、これで終わりだぜ。
次は、誰に話してもらう?


       (三話目に続く)