晦−つきこもり
>三話目(真田泰明)
>X11

ははっ、でも相手は大女優だぜ。
俺は彼女に話かけようとしたんだ。
「北崎さん、これは……」
しかし無駄だった。
彼女が斬りつけたナイフは俺の手をかすめた。
話し合っても無駄だと悟ったんだ。

俺は死ぬのか……。

そう思った時だ。
ポケットの中の石から、突然、耳鳴りのような音が響きだしたんだ。
すると、彼女は耳をふさぐように頭を押さえだした。
そして奇声をあげながら、彼女は地面に膝を付く。
俺は呆然と事態を見守っていたよ。

やがて、彼女は地面に倒れ、地面に染み込むように消えていったんだ。

恐怖の事件に終止符が打たれた。
俺は、この事件のことを考えたが、自分を納得させる答えは見つからなかった。
その代りに、俺は、彼女の家で一冊の日記を見つけたんだ。
それは彼女の母親の日記らしかった。

彼女の母親は悪魔を信仰していたらしい。
そして悪魔の子である洋子を身ごもったんだ。
幼い頃から、他とは違う雰囲気を持っていた洋子は、四才の時に子役として芸能界へ。

しかし、小動物を殺すなどの奇行があり、その行動は年を重ねるごとに、異常さを増していったということだ。
洋子が十六才の時になると、ようやく母親も、自分がとんでもないものをこの世に導いたと気付いたのさ。
そして悪魔の子を殺そうとした。

しかし、逆に殺されてしまったんだね。
泰明さんの話は、仕事のせいかドラマか映画の中の話のよう……。
それとも、テレビ局ってこんな事件が起こりやすいところなのかしら?

「どうしたんだい? 葉子ちゃん、黙り込んじゃって」
「え、ううん。悪魔だなんて、すごい事件だなって思って……」
「あ……」
泰明さんは、一瞬、黙ったの。
そして、

「いやー、悪い悪い。今の俺の話、実は今度の特番のあらすじなんだ。怖い話っていうから、ついのっちゃってさ……」
じゃあ、今のは全部作り話なの?

「ごめんよ。葉子ちゃんが本気にするとは思わなかったんだ」
「……ううん、でもなんだかほっとしちゃった」
そうよ、この石にそんな力があるなんて……。
私は、泰明さんから渡された石を、もう一度じっくりと見る。
その時……!?

私の手のひらで、石が震えたような気がしたわ。
もっとも、私以外には誰も気付いていないみたい。
石の持ち主だった泰明さんですら、知らないと思う。

「まあ、とりあえず、これで石が三つ目になったわけだ。
いったい何が起こるんだろうな、今日……」


       (四話目に続く)