晦−つきこもり
>三話目(真田泰明)
>Z8

俺もそう思った。
というより、この家は事件には関係ないと思ったんだ。
この家が北崎洋子の家だったら、あまりにもできすぎだと思ったんだよ。
俺はベルに反応がないことに不思議とホッとしたんだ。
本人の家でも、他人の家でも失望するような気がした。

俺は帰ることにする。
そして昼下がりの閑静な住宅街を抜け駅に向かった。

こうして取材は失敗に終った。
とてつもないことになる予感がしていたんだけど……。
ごめん、電話だ。
『もしもし、真田だけど。おお、どうした。えっ、あの家の持ち主がわかった? ……えっ、北崎洋子の家だって!? わかった、今からすぐに行く。ああ……、うん……、わかった』

みんなごめん、ちょっと仕事だ。
じゃあ、今度会う時はこの続きを話せるかもしれない。

泰明さんはそう早口でいうと、部屋を出ていった。
家の外で車の音がする。
「あーあ、行っちゃった」
あきらかに不満の声を上げたのは、由香里姉さんだった。

「あらあら、いいだしたのは泰明さんなのにねぇ」
「ギョーカイジン、ギョーカイジン」
まったく、良夫の奴は気楽にいってるけどさ。
泰明さんだって、お仕事なんだから。

この会は、これでお開きになったけど、頑張ってね、泰明さん!
………………?
何かしら?
泰明さんの座ってた辺りに、一冊の本が落ちてるわ。
なんだ、ドラマの台本じゃない。
ええと……、タイトルは?

『石にまつわる怖い話・春の章』ですって……!?


すべては闇の中に…
              終