晦−つきこもり
>三話目(真田泰明)
>AM3

よくわかったね。
もしかして、俺が力を認められた番組が北崎洋子に関するものだったから、それを思い出していってくれたのかな。
ちょうど、北崎洋子と沢野明美のヒロインの座を争っての確執が、世間で騒がれていた頃でさ。

スキャンダルだらけの時代だからこそ……ということで、俺は、女優というものを正面から捉えた特集を組んだんだ。
その番組は視聴者だけでなく、芸能界の人たちの共感も得ることができた。

実はさ、あのドキュメントには裏があるんだよ。
この石を持っていた沢野明美、北崎洋子、そして俺の間で激しい戦いが繰り広げられたんだ。
大げさに聞こえるかも知れないけど、まさに戦いという言葉がぴったりだったんだ。

俺達三人は、それぞれこれと同じ石を持っていたんだ。
いや、正確にいうと、この石が三つに分かれた破片を一つづつ持っていたんだ。
この石は持ち主の為に働いてくれる。

普段は持ち主に対して、幸運をもたらすような感じなんだけど。
石の持ち主どうしの利害の対立になると話は違ったのさ。
どっちかが倒れるまで石どうしが争う、そんな感じだったんだ。
そして当時、俺は北崎洋子と協力して、沢野明美を倒したんだよ。

沢野明美は死んだ。
石どうしの戦いに敗れたら、その持ち主は死ぬことになるんだよ。
だから、もし俺が今回の取材を続け、北崎洋子と対立することになると、また、命をかけた争いになるのは目に見えていた。

えっ、そのときの話かい。
話が長くなるから、まあ、話を続けるよ。
それは今度話すことにしよう。
そんな理由があって、俺はこの取材を中止しようと思ったんだ。

でも記者たちの取材は順調に進み、もう止めることができないまでになっていたんだ。
俺は考えた。

そして対決する覚悟を決めたんだよ。
もう彼女も、俺と対決するしかないだろう。
そして俺は単身でインタビューに臨んだんだ。
彼女は場所に自分の家を指定してきた。
決着をつける覚悟のようだ。
平日の昼下がり、人影はない。

暖かい日が差し、ほのぼのとした陽気が、これから対決があることを忘れさせる。
彼女の家を訪れた俺は、他の人から見れば、昼食に招かれた友人のようにさえ思えただろうな。
俺は呼び鈴を鳴らし、彼女がインターホンで鍵が開いていることを告げた。

俺はためらいもせずにドアを開け、家の中に入ったんだ。
家の中はひっそりしているが、やはり、これから対決が起きる……なんていう雰囲気は全然実感できなかったのさ。
俺は、まよわず突き当たりのリビングに入った。

その部屋は、分譲住宅とは思えないほど豪華なもので、その住人の素性を容易に想像できるものだったよ。
俺が、少しそこで立ちすくんでると……。
キッチンの方から、北崎洋子が現れたんだ。
彼女は微笑みを浮かべていたが、それは一瞬で消えた。

そして真剣な眼差しを俺に向けたんだ。
俺たちはしばらく無言のままだったよ。
お互いに対決を回避しようと、悪あがきをしてたのさ。
だが、どんなに考えを巡らせても、対決以外の結論はでなかった。
俺も彼女も決心したんだ。

北崎さんは、何もいわずに庭へ出た。
素足のまま……。
俺も、彼女の後に続いたよ。
空はいつの間にか、どんよりとした雲に覆われていた。
沢野明美の時と同じだ。
もう石どうしの衝突は始まっているのだろう。

「これからどうなるのかしら、ふふっ」
彼女は不気味に笑った。
「さあ、石の気分しだいだろ」
俺は投げ捨てるようにそういった。
「そうね、後は石が結論を出してくれるわ」
辺りはもう日が落ちたように真っ暗だ。

雨が降りだし、時折雲が光を放つ。
「真田君、もしかしたら私たち、石に利用されているだけなのかも、しれないわね」
彼女は独り言のようにそう呟くと、少し哀しそうな表情を見せた。
俺も同じことを考えていたよ。

雨が本格的に強くなり、風が出てきた。
稲妻が空気を切り裂き始めている。
「北崎さん、インタビューを始めていいですか」
彼女は、俺のその言葉を聞くと、少し意外そうな顔をして優しく微笑んだ。

「そうね、石が戦い始めるまでの余興にはちょうどいいわ」
俺はインタビューを始めたんだ。

「北崎さん、あれ以来、あなたの周りで行方不明者が多数でていますが、どうなさったんですか。
まさか、沢野明美と同じように……」
俺は、あの時のことを思い出していた。

「そうよ。私が邪魔だなって思うと、いつの間にか消えるのよ」
彼女の表情は、まるであの時の沢野明美と同じだった。
「殺したんじゃないんですね……」
そう問いかけた瞬間……!
一筋の稲妻が俺たちの間に落ちたんだ。

そして、俺の石があの時と同じように鳴り始めたんだ。
地面が激しく揺れ、不気味な低音が響く。
まるで地面の中でなにかが動いているようだった。
俺は事態の成り行きを見守った。
すると、彼女の周りの地面から次々と化け物が現れたんだ。

いや化け物というよりは、動く腐乱死体だ。
これが敵なのか、味方なのか、俺は考えた。
なんだ、こいつらは……?
俺は負けたのか……。
そう思った時だ。
その腐乱死体たちが、彼女を襲いだしたんだ。

彼女は、近くにあったゴルフクラブで格闘している。
やはり、彼女はこの人たちを殺していたのか……。
そう感じたね。
「なんで、なんでこんなところに死体があるのよ!」
彼女は叫んでた。
彼女自身にも、身に覚えのないことだったっていうのか……?

だが、必死の抵抗もむなしく、徐々に彼女は追いつめられていったんだ。
腐乱死体は、ゆっくりと彼女に迫る。
「そうか、わかったわ……。あの石がこの人たちを殺した……」
疲れきった彼女は、そう呟くとクラブを地面に落としたんだ。

「けっきょく、石に弄ばれていただけなのね……」
もう彼女は、腐乱死体に取り囲まれていた。
やがて、腐乱死体たちが彼女の四肢を四方から引っ張り始めると……。
彼女の体は宙に浮きあがり……。

次の瞬間、彼女の体は四つに離れた。
腐乱死体は動きを止め、地面に倒れる。
辺りは静けさを取り戻した。
いつの間にか石から響く音は消え、雲の隙間から日が射し込んでいる。
それはまるで勝負の終わりを告げているようだった。

そして完全に雲が晴れ、太陽が庭を照らした時。
北崎さんや、腐乱死体は空気に溶けるように消えたんだ。
俺はポケットから、自分の石を取り出してみた。
石は案の上、大きくなっている。
彼女の石とくっついたんだよ。

もしまた石を持つ者と出会ったら、戦うことになるのだろうか?
それとも対立さえしなければ……?
俺は、そんなことを考えてたんだ。

まあ、これで俺の話は終わりだ。
しかし、これで三つ石が集まったわけだ。
いったい今夜なにが起こるのか。
今までとは感じが違う。
ただ何かが起こる、そんな気がする。

北崎さんの時みたいに、俺たちは運命を避けることはできない。
最後まで続けるしかないだろう。


       (四話目に続く)