晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>A10

やっぱり、振り向くわよね。
私もよ。
そうしたら……犬はね……。
ただ、静かに病院を眺めていたの。
しばらく目が離せなかったわよ。
本当にもう、ただ、じいっと病院を眺めていたのよ……。

私が見た夢は、きっと本当にあったことなのよ。
女の子と犬は事故にあったの。
女の子は病院に。
ひどい話だけど、犬は道端に置き去りに。
まあ、自力で病院を訪ねたようだけど。

きっと、中には入れてもらえないまま……。
ねえ、あの犬の魂は、あれからもずっと、病院の側にいるんじゃないかしら。
起きている時は病院を眺めて、寝ている時は……そうねえ、女の子とボールで遊んでいる夢でも見ているんじゃないかしら。

知ってる?
動物も、夢を見るんだって。
特に、飼い犬とか猫とか、よく眠る動物は夢を見ているんだって。
私ね、今でも時々その病院の夢を見るのよ。
その度に思うの。

犬は、まだあの病院にいるのかなって……。
あの犬、いなくなった女の子を、ずっと待ち続けるのかしら。
もし、捜している女の子に似た子が偶然通りかかったら、どうするのかしら。
いろいろ考えてしまうのよ。

怖いのと……心配なのと、半々ね。
みんなはどう思う?
じゃあ、そろそろ次の人に代わるわね。
次は、誰が話す……?


       (四話目に続く)