晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>C11

そう……。
そうよね。
私ね、それ以上、何もできなかったの。
女の子の制服から学校を調べて、又あの場所に連れていくこともできたと思うけど。
そんな気にはなれなかったのよね。

あの犬の気持ち、私には少しだけわかるのよ。
時々思うもの。
良夫がもっと小さかった頃のこと。
かわいかったなとか、楽しかったなとか。
そういう気持ちって、他の人にどうこうされるものじゃないからね。

自分自身で、くり返し思い出したり、忘れたりするものだと思うから。
葉子ちゃんだったら、好きな人に対する気持ちに置きかえられるでしょ。
今、好きな人がいるかどうかは知らないけれど。

…………じゃあ、そろそろ次の話を聞こうかしら。
今度は、誰が話すの……?


       (四話目に続く)