晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>D11

そう……。
やっぱりよくないわよね。
わかったわ、私、又あの病院に行ってみるわ。
犬になんとか伝えるわよ。
待っている人はもう来ないって。
葉子ちゃん、一緒に来てくれるわよね。

「え……っ?」
そういうことになるとは。
「そうか、葉子ちゃんは優しいね、犬を成仏させるんだな。よしよし、今度自分が、ごほうびに山へ連れていってやろう」
哲夫おじさんが、涙ぐんだ目でそういった。

「葉子、後で結果を教えてよね。
じゃあ、次は誰が話す?」
由香里姉さんが促し、再び怖い話が始まった。
みんな、いろんな体験をしてるのね。
私は今まで、怖い目にあったことなんてないけど……。

……次の日。
私と和子おばさんは、一緒に例の病院へ行った。
ボールがあるという場所に直行する。
そこには…………。
「きゃあああっ!!」
二人の中学生が、喉を食い破られて死んでいた。

「……なんで……一体、どうしてこんなことに……?」
私がよろめくと、和子おばさんが支えてくれた。
「葉子ちゃん……どうしたの?」
「死、死……」
死体、といおうとしたけど、言葉にならなかった。

「なんで叫んだの? 何もないじゃない」
和子おばさんには、これが見えないの?
ってことは、この二人は霊?
「犬、もういないわね。……そうよね、あれからもう、五年も経つものね」

「和子おばさん……ここ、嫌……」
一刻も早く、この場を去りたかった。
きっとこの二人は、和子おばさんが会った中学生だわ。
そして、二人を殺したのは……。

「犬は、気付いていたのよ」
「えっ、葉子ちゃん、どうしたの、いきなり?」
「あっ……ごめんなさい、いえ、なんでもないです。行きましょう」
「葉子ちゃん?」
私は、先に歩きだした。

和子おばさんには、伝えないほうがいいかもしれない。
犬は気付いてたんだわ。
女の子が生きていたこと。
成長して、自分の前に現れたこと。
ボールを投げた男の子と、仲良くしていたこと……。

和子おばさん、いってたわよね。
女の子が、こういって去ったって。
「もういいんです。あの時のことは」
言葉はわからなくても、気持ちは伝わったんじゃないかしら。

犬は、わざと気付かないふりをしていたのよ。
病院を射貫くように見つめながら……。
……何かの息づかいが聞えた気がした。
振り向くと、さっきの場所に犬がいた。

口を血だらけにした犬が、私をじっと見つめている。
(まさか、私まで襲うつもり?)
歩みを止めた私に、犬が低く唸り声をあげた……。


すべては闇の中に…
              終