晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>G8

「なんだよ、葉子ネエ、ジロジロ見て。俺の寝顔が見たいの? ヨバイか?」
「良夫! 変な言葉使うんじゃないわよ!」
「ヨバイ、ヨバイ、葉子ネエがヨバイだーーー」
「良夫!」

和子おばさんと良夫が、ドタバタしだした……。
「がっはっは、良夫君は元気がいいなあ」
「哲夫、笑っちゃ駄目だよ。ほら、良夫君も。怖い話を聞くんだろう? ねえ、葉子ちゃん」

「……ああ、そうね泰明さん。怖い話よ。ほらもう、良夫、あんたは黙ってなさい。脱線話はここまでよ」
「やだね。やーい、葉子ネエがヨバイだ〜」
「…………良夫」
和子おばさんが、ため息をついた。
そして、おもむろにあくびをした。

「なんだか疲れたわ。ねえみんな、眠くない?」
……ええっ?
せっかくここまで話を聞いたのに。
「かあちゃん、もう寝ようよ」
続いて良夫もあくびをした。
それが、哲夫おじさんにうつる。

「ふああ……そういえば、今何時だ? おお、もうこんな時間か。
子供は寝なきゃな。な、良夫くん、葉子ちゃん」
げっ。
なんで私を良夫と一緒にするの!?
哲夫おじさん、許せないわ。

「そうだね、葉子ちゃん、もう寝ようよ」
泰明さんまで。
あ、あんなに大きなあくびをして。
やだっ、イメージ壊れちゃう。

「私もこのへんで休ませていただこうかしら。実は、さきほどからどうも寒くて……」
え、正美おばさんも寝たいの?
「あ、私も!! あー寒いっ、この部屋、やっぱり何かあるよね。呪われないうちに寝ちゃおうよ」

由香里姉さんが立ち上がると、みんなつぎつぎと部屋を出ていった。
「和子おばさん、話の続きは……」
「ああ、明日ね」
和子おばさんは短く答え、部屋を出ていった。

あーあ、もっと話が聞きたかったのに。
私もあくびをし、のろのろと客間を出た。
その夜、私は夢を見た。
「葉子……」
夢の中で、誰かが呼ぶ声がする。

「……誰?」
「葉子……葉子……」
私を呼ぶ声は、次第に大きくなった。
「誰っ!?」
叫ぶと、いきなり何かが私の前に出てきた。
「ヨーバーイーだー」

……血だらけの顔をした、良夫だった。
「きゃーーーーっ!!」
良夫は、ほっぺに手をあてて、自分の顔を思い切りねじっている。
血だらけの顔をしていることより、その奇抜な行動の方が怖かった。

な、なんなのこいつ。
夢の中でも、私をからかうつもり?
私は、一晩中うなされ続けた……。


すべては闇の中に…
              終