晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>B10

そうだろ?
自分もな、後ろなんか見れなくて、ガタガタと震えていたよ。
自分は、布団の中に頭をつっこんで、必死に耳を押さえてだな。
ガタガタと震えて、泣いていたんだ。

するとどうだ。
だんだんと、テントをたたく音が静かになっていってな。
ついには、何も聞こえなくなっていったんだ。

あのお経を唱える声も聞こえなくなっていた。
自分は、ゆっくりと布団の中から顔を出してみたんだ。
そうすると、テントを照らしていたあの火の玉の光もすっかりなくなっていてな。
テントは、すっかり暗くなっていたよ。

「山崎さん」
自分は、飛び上がらんほど驚いたよ。
急に、藤澤の奴が話しかけてくるんだものな。
さっきまで、いくら起こしても起きなかったくせに。
実はな、その時に聞いたんだが、後ろから聞こえていた声。

あれ、藤澤がお経を唱えていたんだそうだ。
自分が唱えていたお経の声で目が覚めたらしい。
いや、正確には、金縛りが解けたんだそうだ。
どうりで起きなかったはずだよな、自分がいくら起こしても。

たぶん、自分がお経を唱えたから、金縛りが解けたに違いない。
おかげで自分は助かったんだ。
しばらく様子を見ていたんだがな。
もうこれ以上、霊が近寄ってくる様子はなかった。
でも一応の用心のためにな。

藤澤が、テントを清めてな。
まあ、持っていた食事用の塩をテントの入り口にまいただけだったけどな。
それでも効果があったのか、それからは何事もなく朝を迎えたよ。
まあ、自分は結局怖くて眠ることはできなかったがな。

自分は、家に帰ってきてから藤澤に話したんだ。
あの、テントが流された夢のこと。
するとな、藤澤はその夢であの霊たちが死んだときの状況を自分に伝えたかったに違いないといっていたよ。

きっと、あの霊たちは、あの場所で増水した川に流されて死んだに違いない。
流された時に、岩に体をぶつけたんだろうな。
血だらけで現れたってことは……。
自分たちが、全く同じ場所でキャンプを張っていたんで、出てきたんだろう。
そんなことがあったんだよ。

確かに、今考えるとな、あの場所でキャンプを張っていて、川が増水していたら逃げる場所がなかったような気がする。
自分は、あれ以来キャンプをするときには、そのことに注意して場所を決めることにしたよ。
まあ、当たり前のことなんだがな。
そんなことがあったんだ。

どうだい?
葉子ちゃん。
怖かった?
自分の話はこのくらいにしておくよ。
まだ、たくさん残っているからな。
話してない人が。
じゃあ、次の人は誰だい?
葉子ちゃん。


       (四話目に続く)