晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>C9

そうなんだよ!
霊が怒ったんだ!!
自分の生半可なお経じゃ、意味がなかったんだ。
いや、それどころか、全くの逆効果だ。
テントをたたく音が、さらに激しくなったんだよ!

もう、自分は頭がどうにかなりそうだった。
いや、あのときは実際に頭が変になっていたのかもしれない。
自分は、テントをたたく奴に抵抗するために、逆に内側からテントをたたいてやったんだ!
いや、たたいているというより、暴れていたといった方が近いかもしれない。

その時の自分を見たら、みんな自分のことをおかしな奴だと思ったはずだよ。
それぐらい、激しく暴れ回ったんだ。
そうしたら、当然のように、テントはつぶれてしまった。
自分は、テントの布の下敷きになってしまったんだ。

その時の自分の恐怖といったら……。
わかるかい? 葉子ちゃん。
周りが気になって仕方がないのに、視界が閉ざされていて、見ることができないんだ。
あの幽霊が、外に立っている!
そいつらが自分に何をしてくるのかわからない!

それなのにすぐに外が見れないんだ!!
自分は、必死になって、テントから這い出たよ。
すると、外には……。
「!!」
血だらけの幽霊が、自分を見下ろしていたんだ!

そのあと気がつくと、自分は仲間のみんなに手当を受けていたよ。
自分はな、あのあと気絶していたんだ。
情けないと思うかい?
思うだろ?
思ってるだろ?

な、葉子ちゃん!
思ってるだろ?
思ってるだろ!?
思ってるだろぉーーーーーっ!!
「きゃぁーーーー!」
「やめなさい! 哲夫さん!」
哲夫おじさんが、いきなり私の首を絞めてきたんです!

幸い、和子おばさんや、泰明さんが押さえつけてくれたので、私は助かりました。
哲夫おじさんは、そのあと気を失ってしまいましたが……。
正美おばさんが、必死に看病しています。
(哲夫おじさん、一体どうしたのかしら……)

哲夫おじさんのあのときの目……。
まるで、何かにとり憑かれているような……。
そんな目をしていたわ。
「う、うう〜ん」
あ、哲夫おじさん、目を覚ましたみたい。

「だいじょうぶ?
哲夫おじさん……」
「葉子ちゃん……。自分は、いったい……?」
哲夫おじさんは、さっきのことを覚えていないみたい。
泰明さんが、起こったことをかいつまんで話して聞かせてあげました。

「そうか、そんなことを自分が……。すまなかったね。葉子ちゃん。自分はな、たまにあるんだよ。こんな事が。人に会っていたりしているときに、たまにわけが分からなくなって……。気がつくと、自分の部屋にいたりするんだ。この前も、和弘さんに会ったときに……」

哲夫おじさんは、それっきり黙ってしまいました。
「そういえば、和弘さん遅いね。
すっぽかしたんじゃん?」
和弘おじさんの名前が出て、由香里姉さんが、そういいました。

「あら、そういえば、まだ来ないわね」
「ああ、遅いな……」
「それより、今は哲夫さんの心配をするときですわ」
さすが、看護婦の正美おばさん。
いない人のことより、目の前の病人の方が心配そう。

「大丈夫ですか?
哲夫さん……。私でなくても、あなたの具合が悪そうなのが見てとれますわ。少し、横になった方がいいのでは……」

「いや、大丈夫。心配をかけました。黙って、座っていれば大丈夫。さあ、続けましょう」
哲夫おじさん、真っ青な顔をしてる……。
本当に大丈夫なのかしら……。

みんなが、私を見ています。
とりあえず、話を続けることにしました。
次は……。


       (四話目に続く)