晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>F11

自分はな、急にこんな話をしたって、信じてもらえないんじゃないのかと思っていたんだ。
でも、みんなは真剣に話を聞いてくれた。
そして、藤澤がいなくなったのも、霊の仕業じゃないのかって言い出したんだ。

自分もそう思っていたんだけどな。
一人だけそんなわけがないと言い張るやつがいたんだ。
そいつは、昔から幽霊とかのオカルト関係は完全に否定する奴だったからな。
自分がいくらいっても、信じてくれなかったんだ。

そいつは、自分一人でも藤澤を捜しに行くといってな。
テントを出ていこうとするんだよ。
自分は、必死に止めたさ。
しかし、藤澤のことが心配だといって、自分を振りきって捜しに行ってしまったんだ。

テントの中には、自分も含めて三人が残っていた。
自分らは、無言のまま布団にくるまり、出ていった奴の帰りをじっと待っていたんだ。
しかし、そいつはいつまでたっても戻ってこなかった。
自分らは、だんだん不安になってな。

一人が、いなくなった奴らを捜しに行こうと言い出したんだ。
自分は、何となく捜しに行っても無駄なような気がしていた。
なぜだかわからないがな。
いなくなった二人はもう生きていないんじゃないのかって、気がしていたんだ。

ここで、捜しに行っても犠牲者を増やすだけだ。
そう思った自分は、必死になって止めたんだ。
それでも、自分のいうことを聞いてはくれなかった。
今考えると、あいつらは霊に誘われていたのかもしれない。

案の定、そいつも戻ってはこなかったよ。
テントは、とうとう二人きりになってしまったんだ。
天井からつるした頼りない懐中電灯が、ゆっくりと左右に揺れていた。
何気なしにそれを見ていると、信じられなかったよ。

さっきまでテントに入りきれないほどの仲間がいたことがな。
自分はな、外に出るのは危険だから絶対に出ないようにしようといったんだ。
それなのにな、残った一人、川村って奴なんだけど、そいつも捜しに行くと言い出したんだ。

自分は、必死に止めたさ。
でも、川村の奴も聞かないんだ。
絶対に行くと言い張ってな。
それで、今度は自分もついていくことにしたんだ。
一人で行かせるのは危険だし、何より一人だけ取り残されるのも怖かったからな。

外は相変わらず、深い霧に包まれていたよ。
いや、さっきよりひどくなっているかもしれない。
そんな感じさえした。
自分らは、とりあえず自分がはじめにいたテントの中を調べてみたんだ。

みんな、こっちのテントにいるかもしれないからな。
でも、そんなことはなかった。
テントの中は、しんと静まり返っていて、気味が悪いぐらいだった。
じゃあ、次はどこを捜そうか……。

そう思ったときだ。
「あそこ!」
川村の奴が、何かを見つけたようだった。
自分は、川村が指さしている方を見てみたんだ。
すると、川の中に、誰かが倒れているのが何となく見えた。

おぼれたのかと思い、自分は一瞬ひやりとしたよ!
早く捜しに来ていれば、助かったかもしれないのに。
そう思ったからだ!
自分らは、急いで川の方へ走っていった。
自分と川村は、川の辺から目を凝らして、川の中で倒れている誰かを見ていたんだ。

しかし霧のせいで、それが誰なのかはわからなかった。
川村は、用心しながら、川に入っていった。
気をつけろよと、いおうとしたときだった。
川村は足が滑ったのか、川の中に倒れてしまったんだ!

「川村!」
自分は、急いで駆けつけて、助けようと手を伸ばしたんだ。
その時だ!
川村の足の付近に誰かがいるのが見えたんだ!
そいつが、川村の足を引っ張って川の中に引きずり込んでいるように見えた!

自分はな、川村の手をしっかりと握って、引っ張り上げようとしたんだ。
でも、信じられないほどの力で、川村は引きずり込まれていた。
「がぼっ……ぶぁわっ」
川村は、必死になって息をしようともがいている。

このままでは、自分まで引きずり込まれてしまう!
そう思ったときだ。
手が滑って、川村を離してしまった!!
「川村ぁーー!!」
そう叫んだときには、川村の姿は、川の中へと消えてしまっていた……。

あたりには、川のせせらぎの音以外、何も聞こえない。
自分は、しばらく呆然として、川の中をじっと眺めていた。
ほかの奴らも、同じようにして引きずり込まれてしまったのか……。
そう思ったらな、急に川村にしがみついていた何かのことを思い出したんだ。

自分は、急に恐ろしくなってな。
急いでテントに戻ったんだ。
もちろん、川村達が寝ていたテントのほうにな。
翌朝。
自分は、ひどい気分で目が覚めた。

夢であってほしい……。
そう思ったが、テントの中はしんと静まり返っていて、昨夜の出来事が現実だってことを告げていた。
自分はな、おそるおそる川を調べたんだ。
しかし、川は何事もなかったかのように、静かに流れていた。

仕方がなく、自分は一人で山を下りたよ。
もちろん、警察に捜索してもらった。
しかしな、あいつらの死体はあがらなかったんだ……。
そんなことがあったんだよ、葉子ちゃん。

川村達を引きずり込んでいたもの。
あれ、何だったのかな。
今でもたまに夢を見るよ。
水の中で、何かに足をつかまれる夢を。
そして、自分の足を引っ張っている奴の顔を見るんだ。

自分を引っ張っているのは、あのときにいっしょにいった仲間たちなんだよ……。
自分は、仲間たちに呼ばれているのかな。
そんな話だ。
それじゃあ、これで話を終わるよ。
次は、誰だい?


       (四話目に続く)