晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>G11

そう。
あいつら、自分の話を信じなかったんだ。
そんな馬鹿なことがあるかって。
もともと幽霊とかそのたぐいのものは、まったく信じない奴らばかりだったからな。

信じるわけがないんだ。
でも一人だけ信じてくれる奴もいたよ。
川村って奴なんだがな。
そいつも、なんだか気味が悪いものを感じていたらしい。
信じなかった二人は、藤澤を捜しに行くといって、出ていってしまった。

自分と川村は、テントに残ったんだ。
自分は怖くて、外になんか出たくなかったし、川村は気味が悪いから自分と一緒に残るといってな。
自分ら二人は、何も話さずにじっと布団にくるまって、みんなが帰るのをひたすらに待ち続けたんだ。

………………………………。
みんなが捜しに出かけてから、一時間。
幸い、自分らの前に何かが出るということはなかった。
そのかわりといってはなんだがな、捜しに行った奴らも、帰ってこないんだ。

いくらなんでも、遅すぎるだろ?
その河原の広さなんて、たかがしれている。
どう考えたって、捜すのに一時間もかかるはずがない。
自分らは、おかしいと思ったんだ。

自分らも、捜しに行くべきかと思ったんだがな。
怖くて、テントを放れたくなかったんだ。
それは、川村も同じだった。
それで、もうしばらく様子を見ることにしたんだ。
あとで後悔することになったんだがな……。

自分らは、みんなを待っているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
気がつくと、もうすっかり日が昇っていたんだ。
(おかしい……)
自分は、そう思った。
まだ、みんなが戻ってきていないんだ。

「おい、川村! 起きろ!」
自分は、急いで川村を起こした。
寝ぼける川村に、事情を説明して、すぐにみんなを捜しに行ったんだ。
でもな、どこにもいないんだよ。

もちろん、自分がはじめに寝ていたテントも調べてみたさ。
そこにも誰もいないんだ。
もし、森の中に入っていたのなら、もうお手上げだ。
森の中から探し出すのは、不可能に近い。
沢を下っていったのかもしれないとも思ったんだがな。

真夜中の上に、霧も出ていて、視界が悪い時にだ。
そんな時に、沢を下って行くなんて、自殺行為に等しい。
沢を下っていったってことは、ないだろう。
自分らは、ぎりぎりまで探し回ったが、とうとう見つけだすことはできなかったよ。

それで、自分らは仕方がなく、彼らをおいて帰ったんだ。
当然山から下りた後、警察に連絡して捜してもらったよ。
その辺一体をな。
そして、彼らは発見された。
もう二度と動くことのない姿でな。

自分らが、テントを張っていたところより、少し下流に行ったところの森の中で見つかったらしい。
自分らは、それを聞いたとき、とても信じられなかったよ。
つい先日まで一緒にいた奴が死んだなんて、実感がわかないんだ。

自分は、彼らがどうして死んだのか、警察に聞いてみたんだ。
するとな、警察は困ったような顔をして、そっと教えてくれたよ。
自分は、それを聞いて愕然とした。
みんなとても考えられない死に方をしていたんだ。

森の中で死んでいたのにな、みんな溺死体だったんだよ!
森の中なのにだぞ!?
変だよな、おかしいよな!
それだけじゃないんだ。
そこにはな、彼らの死体と一緒に、三人分の白骨死体が見つかったんだ。

死んでから、一年ぐらいたっているということだった。
その死体はな、男二人と、女一人の死体だったらしいぞ。
……自分が見たあの幽霊と同じ組み合わせだよな。
だとすると、あの幽霊は、その白骨死体の……。

もしかしたら、あの幽霊の仕業なのかな。
みんなが死んだのは。
そうじゃないと、説明が付かないよな、森の中で溺死体で発見されたなんて……。
そんなことがあったんだよ。

葉子ちゃん。
葉子ちゃんは、溺死体を見たことがあるかい?
自分は、その時に身元の確認のために、一応死体を見せられたんだ。
あんなもの見るものじゃないぞ。
今思い出しただけでも、気持ちが悪くなってくる。

なんであんなものを見せるのかな。
見たって、それが誰なのか、まったくわからないのにな。
形式上ってやつか?
勘弁してほしいよな、まったく。
それじゃあ、これで自分の話を終わるよ。
じゃあ、次はだれが話す?


       (四話目に続く)